ベテランの意地を見せつけられた気がした。

 2月1日、埼玉スタジアムで行なわれたカタールワールドカップ・アジア最終予選、サウジアラビア代表戦。日本代表がカタールワールドカップに文句なしで出場できる2位以内に入るためには、首位を走るライバルから絶対に勝ち点3を奪わなければならなかった。

 サウジアラビアは引き分けでも御の字とあって、立ち上がりからゆったりと時間を使おうとする。ポゼッションに長けているため、日本のプレッシングにも涼しい顔だ。

 のらりくらりとズルズルと時間を使われてしまうことだけはどうしても避けたい。チームにスイッチを入れるように35歳、左サイドバックのベテランが沸点を高くして動いた。

 前半13分だった。

 左からのクロスは引っ掛かったものの、自分のところにこぼれてくると必死にボールを追い掛けて相手に体をぶつけながらスローインを勝ち取ったシーンがあった。場内からは拍手が巻き起こり、チーム全体のテンションを引き上げた。経験値とはそういうところ。一つのプレーから盛り上がりをつくってペースを引き込むことが、ホームで戦える利点でもある。

 空気が変わった気がした。インテンシティの高い中盤3枚を中心にメリハリをつけた「いい守備」によって前半なかばから「いい攻撃」が繰り出されるようになり、南野拓実の先制点が生まれた。

 

 後半5分の追加点は長友がしっかりと絡んでいる。前に出て南野のパスを受けて強引に中に送り、右サイドで受け取った伊東純也が豪快なミドルシュートで突き刺した。

 決して彼のパフォーマンスがすこぶる良かったとは思えない。クロスがペナルティーエリア内にポジションを取る選手と呼吸が合っていない課題は解消されていない。コンディションの問題もあるだろうが、中国戦に続いて中山雄太と早い時間帯で交代させられている。しかしながら淡々に進みがちな展開にクサビを打つがごとく味方の闘志に火をつけていく長友の存在感はやはりこのチームにとって必要なものだと感じないではいられなかった。

 

 最近はフィジカルのストロングポイントを打ち出せず、低調なプレー内容から批判的な目を向けられることも多くなった。

 しかしこれもエネルギーに変えてしまうのが、彼の凄さだ。勝利した昨年10月のオーストラリア戦後にインタビューした際、このように語った。

「大きく称賛されるのも大きく批判されるのもその選手の価値だと思うんです。日本代表としてプレーして期待と責任を背負って戦っている証でもある。だから後輩や若手には言うんです。称賛もそうだけど、批判も含めてその大きさが自分の価値なんだよって」

 大きな称賛が評価基準になっているのだから、パフォーマンスが良くなければ大きな批判が巻き起こる。逆に言えば、この大きな批判を覆すことができれば再び大きな称賛を得ることができる。長友はそのように捉えている。

 

 日本代表にも同じことが言えるのかもしれない。長友がA代表デビューを果たした岡田ジャパンは南アフリカワールドカップ直前まで猛バッシングにさらされた。しかし本大会でベスト16まで進出し、大きな批判は大きな称賛に変わった。

 長友は遠藤保仁に次いでキャップ数も130を超えた。称賛と批判のなかで戦い抜いてきた経験値こそ、森保一監督は頼りにしているのだろう。

 交代時には中山とガッツリとハグしてから送り出し、ベンチに下がってからも声を張り上げて味方を後押しする。中国戦でもサウジアラビア戦でも変わらない光景だった。

 彼はこうも語っていた。

「試合に出ようが、出まいが、俺は勝ちたいんです。そうじゃないと夢、目指せないじゃないですか。このチームで俺は勝ちたい。嘘でも何でもない、それが自分のストレートな気持ちなんです」

 長友の夢とはカタールワールドカップでベスト8以上にチャレンジすること。

 7大会連続となるワールドカップ出場に王手を懸けたとはいえ、次のアウェー、オーストラリア戦(3月24日)に敗れてしまえば2位と3位が入れ替わる。絶対に負けられない正念場の一戦が待っている。

 このチームで勝ちたい。嘘でも何でもない。

 長友のその思いは、きっと今チーム全体の強い思いとなっているのだと確信できた。


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