2022年シーズンのJリーグがいよいよ開幕する。

 2年連続で独走優勝を果たしている川崎フロンターレがやはり優勝の大本命だ。勝負にしたたかで、層も厚く、過密日程を乗り越えてきた経験も強みとして持っている。現状、死角らしい死角は見当たらない。一方、対抗馬となる昨季2位の横浜F・マリノス、同3位ヴィッセル神戸、天皇杯覇者の浦和レッズは過去の例から見てもACLとの両立の難しさに直面するのは間違いなく(神戸はプレーオフから出場)、その点も「フロンターレ優位」が動かない要素となっている。

 絶対的王者を脅かす存在を敢えて挙げるとすれば、鹿島アントラーズが不気味に映る。クラブ初となる欧州出身監督のレネ・ヴァイラーがコロナ禍によっていまだチームに合流できていないのは大きな不安材料ではあるものの、闘争心溢れるストライカーの帰還がチーム全体の期待感を押し上げている。ベルギー1部シント=トロイデンから2年半ぶりに復帰を果たした25歳の鈴木優磨である。

 

偉大なるバンディエラ、小笠原満男の背番号「40」を引き継いだことでも気合いの入りようが伝わってくる。5年間もタイトルから遠ざかる〝常勝軍団〟の復活は、彼の活躍に懸かっていると言ってもいい。

 ストライカーとして幅を広げてきた。

2020~21年シーズンは17ゴールを挙げてシント=トロイデンのエースとして君臨。試合の映像を見ても、ゴール前でアントラーズの先輩・柳沢敦のように相手との駆け引き、マークの外し方が随分とうまくなった印象を受けた。

昨夏いくつか移籍話が浮上したものの、欧州内でのステップアップ移籍はうまく進まなかった。そして新たなモチベーションを向けた先が古巣だったというわけだ。上田綺世、エヴェラウドもおり、前線はJ随一の豪華陣容になる。

 

 鈴木の一番の魅力は何だかんだと言って、勝利にすべてを注ぎ込むような気迫だ。そこは昔も今も変わらない。

 思い出すのが2016年のJリーグチャンピオンシップ決勝、レッズとの第2戦。後半途中からピッチに入った鈴木はペナルティーエリア内で槙野智章に倒されてPKを獲得する。この際、キッカーの金崎夢生に対して、〝オレに蹴らせてくれ〟とばかりに猛アピールした。結果的に鈴木があきらめた形になったが、そのガツガツ感こそが鹿島らしさを表していた。

 彼にこのシーンのことを尋ねたことがある。

 自らPKを獲得した際は鈴木がキッカーになっていたので、「今回もそうなるかなと思いました」と伝えると彼は苦笑いを浮かべた。

「いや、PKのキッカーは(金崎に)決まっていて、自分がそのチームの決まりを以前崩してしまったんですよ(笑)。だから今回もPKを得たことに喜ぶんじゃなくて、先にボールを取っておけばよかったなって思いました。夢生くんはボールを取るのが早かったし、ボールを先に取ったほうが強いので。夢生くんの蹴りたい気持ちも伝わってきました。俺も結構な言い方をしたし、正直、大抵の人は譲ってくれると思うんですけど、夢生くんも同じぐらいの熱量だったんで〝もういいかな〟って」

 

 自分がやってやるという熱量。勝つための主張に、先輩後輩は関係ない。強いアントラーズの一端を見た気がした。

「何だか鹿島らしいですね」と率直な感想を伝えると、彼はこうも語った。

「あの場面で蹴りたくない人っていないと思うし、チームのために決めたいと思うなかでああいうふうにぶつかっただけ。確かにうちらしいと言えばそうかもしれませんね」

 勝利を目指していくなかでぶつかり合い、そして認め合う。アントラーズの育成組織から上がってきた鈴木にはそのアントラーズイズムがしっかりと受け継がれている。

 そして25歳になって復帰した今は、逆にそのイズムをチームメイトに伝える立場になった。荒木遼太郎、染野唯月ら20歳前後のアタッカーにも影響を与える存在になるだろう。

 鹿島は2月19日、片野坂知宏新監督を迎えたガンバ大阪とアウェーで開幕戦を行なう。

「ストップ・ザ・フロンターレ」の一番手になれるかどうか。そのカギを握るのは間違いなく「アントラーズの40番」である。

 


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