ベテランらしい技術と駆け引きが詰まったゴールであった。

 J3降格に伴って愛媛FCを契約満了になり、今季J2のレノファ山口に完全移籍した山瀬功治が第2節のホーム、ブラウブリッツ秋田戦で初先発した。後半5分だった。佐藤謙介からの縦パスをペナルティーエリア内で引き出すと、半身の姿勢からすぐに前を向く。右足に持ちかえると見せかけて対峙する相手の重心を中に傾かせ、その瞬間左足でゴールニアサイドを射抜いた。チームに今季初勝利をもたらすとともに、遠藤保仁に次ぐ歴代2番目となるJリーグ23年連続ゴール。2000年、コンサドーレ札幌でのルーキー時代から積み上げてきた記録を開幕2戦目で早くも更新した。

 

「常に崖っぷちの感覚で毎日サッカーをやっていますよ」

 2年前にインタビューした際、彼がサラリと言った言葉を思い出す。

 悲壮ではない。むしろサッカーができる喜びを感じつつ、その「崖っぷちの感覚」をモチベーションの種としていた。

「去年までできていたことが今年できなくなるとか、ここ数年うまくいかないことは何かしらあります。そのなかでどうこうできることをやっていく。逆にそれができないと終わってしまいますから。来年取り返せばいいとか、うまくいかなくても次頑張ればいいとかそんな考えを前提とする取り組みは僕のなかにはない。日々がチャレンジなんです」

 光を信じて、もがくことも悔しいことも楽しんで。己を磨くからこそ光沢が生まれる。年齢に合わせて己をうまく変化させているからこそ、息の長いフットボーラーであり続けている。

 

 体力が下り坂になるのは仕方がない。とはいえ、年齢によるパフォーマンスの低下はイコールではない。

 流れを読む、判断を早くする、相手より半歩先に動く、メリハリをつける……培った経験値、駆け引き、技術を駆使して質を上げていけばいいだけのこと。

「何をしたって若返るわけじゃない。どうにもできないことに左右されるんじゃなく、自分でどうこうできることに対してフォーカスしていく。淡々とじゃないですけど、そこはブレずにやっていくしかないですよね。この年齢、この体、この技術で発揮できるスタイルを、うまく構築していければいい。これも僕にとってはチャレンジと言えます」

 40歳を超えても、体力の下り坂を感じさせないのは日々の賜物だと言っていい。愛媛は結果的にJ3に降格してしまったものの、存在感は大きかった。ボランチもやればシャドーもやる。守備の迫力もある。だからこそ契約満了になって移籍先がなかなか見つからないベテランが多いなか、山瀬には年明けのタイミングで山口からのオファーが届いている。

 

「崖っぷちの感覚」を楽しめるのも、サッカーが好きでたまらないからにほかならない。その気持ちが色褪せることもない。

 彼はこんなことも言っている。

「選手としてはタイムリミットがある。でもやれるところまでやりたいし、それはしがみついてでも。セカンドキャリアのことはなるべく考えないようにしているんです。イメージしたら、何となく引っ張られるような感じがするので。指導者がいい、フロントがいいとかじゃなくて、ぼんやりとサッカーに関わりたいくらいでちょうどいい。今は現役を続けることしか考えていない。できなくなったらそのときに考えればいいこと。この先どうなるかなんて、分からないですから」

 できないことを考えるのではなく、できることを考える。

 一つひとつのプレーの質にこだわった先に、この23年連続ゴールがあった。まだまだやれるという何よりの証明にもなった。

 超大台となるJ通算600試合出場まで「2」に迫った。山瀬功治にもっとスポットライトが当たってもいい。


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