コロナ禍による厳戒態勢の中で開催されている北京オリンピック。
 周辺はいろいろきな臭いけど、やはり世界最高峰のパフォーマンス、選手のひたむきな姿は人の心を引き付ける。
 なんだかんだ言いながらも、人の話題は「オリンピックが~」というのを見ていると、スポーツの影響力は本当にすごいなとあらためて感じる。

 

 しかし、そのスポーツにおいて少々つらい現実も見せられている。
 スキージャンプ団体の高梨沙羅選手のスーツ違反失格事件、スピードスケート女子チームパシュートの最後での転倒など、涙なしには見ていられないようなシーンもあった。

 

 高梨選手の件は、ジャンプ界に以前から顕在する問題点だった。業界内でもそれを指摘する声はあったが、小さな閉鎖的な世界ゆえに、なんとなくお互いの空気感でやり過ごしてきたのも事実である。それがこの大きな舞台でいきなり動いたものだから世界が注目した。

 

 非常に判定の難しいスーツ規定、不透明な測定方法……。競技団体もそうだが、選手側も対応し、ある意味利用するような側面もあったと聞く。つまり阿吽の呼吸に近いものがあり、時折見せしめのように失格になるというような状況だったようだ。それがなにもこんなところでという感じもするが、そのグレーな曖昧さが招いた悲劇と言えるだろう。いずれにしても、まじめな高梨選手の心の傷は計り知れず、円谷幸吉さんのようになってしまわないか、本気で心配している。

 

 腹立たしいのが、彼女を非難する声があることだ。
 今回の件は、高梨選手本人のミスではない。チームとしての失敗、いやスキー界としての落ち度である。それでも彼女を非難するというのは、このスポーツの背景を理解していないとしか言いようがない。もっとジャンプ界の人間が情報を発信して欲しいのだが、中にいる立場ではあまり言いたいことも言えないのだろう。

 

 さらに気になるのが、挑戦している選手を揶揄する声である。
 彼女は勝つために最大限の努力をしていた。緻密で厳しいトレーニングに耐え、道具の極限まで追求し、全てをジャンプに注ぎ込んできた。その追求した結果、わずかにマイナスの方に出てしまったということ。「リスクを取らずに安全に行けば~」という声もあるが、それでは勝つことはできない。厳しい世界の中で10年間トップクラスに留まっている彼女本人が一番それを理解していただろう。

 

 だからこそ勝負に出たのだ。戦いでは賭けに出なければいけない時がある。その賭けに勝てなかっただけのこと。勝負に出なければ、もともと勝つことなどできなかった。

 挑戦して敗れたことに賛辞はあっても、非難されるものではないはずだ。

 

 失敗を恐れる文化

 

 同じことは、スピードスケート女子チームパシュートでも言える。
 3人の選手は、勝つために最高の準備をしてきた。フィジカル、技術、メンタル、道具。さらにパシュートという特殊な種目における技術と戦術を磨いてきた。だからこそ、オランダやカナダに勝つためには、全力で挑まなければならないことをよく分かっていたのだろう。

 

 そして全力で勝負した。最後は乳酸が溜まり切ったカラダがいうことを聞いてくれなかったのだろうか、わずかにコントロールできなかった。それだけのこと。
 勝負に出たからこその結果であり、非難することなど誰もできない。

 そして、彼女たちは挑戦することの大切さを教えてくれた。

 

 ところが挑戦したことに素直に賛辞を送れない人たちがいる。
 確かに結果は思ったようなものではなかったかもしれないが、全力で戦ったものをどうして称えられないのか。

 

 日本人は挑戦するより、集団の中で安全に過ごすことを好む傾向がある。

 挑戦して痛い思いするくらいなら、安全なところで無難でやり過ごしたいというマインドだ。さらに挑戦している人を安全なところから揶揄することも。

 

 これはスポーツだけでなく、学校生活や社会生活にも通じる。
 ビジネスでも、日本では一度事業に失敗すると立ち直るのが難しいが、欧米では挑戦している人にチャンスは訪れる。

 

 日本社会は挑戦者を称えるより、失敗した者に冷たいというべきか。失敗しても、挑戦した人を称える文化が少し乏しい。

平均点を出すより、突き抜けることを良しとしない教育にも課題があるのだろう。

 

 挑戦しないところに新しいものは生まれない。もっと挑戦するマインドを応援できる国になりたい。

 挑戦することの重要性がもっとも分かりやすいスポーツを通してでさえ、そのマインドが養われないようでは、先行きは危うい。

 

 でも、チャレンジする選手たちがいるし、それを応援する人もいる。
 それが希望の光だと信じている。

 

 そんなことを思いながら、今夜も雪と氷の世界に声援を送る。

 

白戸太朗(しらと・たろう)プロフィール

17shiratoPF スポーツナビゲーター&プロトライアスリート。日本人として最初にトライアスロンワールドカップを転戦し、その後はアイアンマン(ロングディスタンス)へ転向、息の長い活動を続ける。近年はアドベンチャーレースへも積極的に参加、世界中を転戦していた。スカイパーフェクTV(J Sports)のレギュラーキャスターをつとめるなど、スポーツを多角的に説くナビゲータとして活躍中。08年11月、トライアスロンを国内に普及、発展させていくための会社「株式会社アスロニア」を設立、代表取締役を務める。17年7月より東京都議会議員。著書に『仕事ができる人はなぜトライアスロンに挑むのか!?』(マガジンハウス)、石田淳氏との共著『挫けない力 逆境に負けないセルフマネジメント術』(清流出版)。最新刊は『大切なのは「動く勇気」 トライアスロンから学ぶ快適人生術』 (TWJ books)

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