南友介(ネイス代表取締役)<後編>「『個性』を生かす場所づくり」
伊藤数子: 御社では「ネイス体操教室」のほか発達障がいの子どもたち向けの教室も行っているそうですね。
南友介: きっかけは体操教室の入会や会員継続をお断りせざるを得ない子どもたちの存在でした。「ネイス体操教室」において、多くの子どもたちをお預かりしていると、レッスン中に突然走り出して他の子どもとぶつかったり、先生の指示が聞けず、自身の身に危険が及んだりする出来事に遭遇しました。私たちの体操教室には「ケガをしない・させない」という原則があるので、不本意ながら入会や会員継続についてはお断りすることがありました。
二宮清純: そういった子どもたちにも体を動かす機会をつくれないか、と考えたわけですね。
南: そうなんです。“この子たちはきっと体操が好きで楽しみにしているんだろうな。申し訳ないな”と思い、社内でもどうにかできないかと議論をしました。だったら“この子たちに合う教室を作ればいいじゃないか!”と考え、始めたのが運動療育を中心とした発達支援事業「ネイスぷらす」です。“発達障がいを持っている子どもたちが楽しく体を動かせる場所をつくりたい”“個性を得意に変えていく場所にしたい”という思いから開設しました。
二宮: 昨年5月に開設してからの反響は?
南: 既に児童発達支援事業・放課後等デイサービスという仕組みはありましたが、学童クラブのようなお預かりのみの施設が多い状況でした。そんな中、数少ない私たちの運動特化型施設は多くの反響をいただき、開設前から予約で定員が埋まるほどの人気ぶりでした。その需要に応えるべく、急ピッチで開所を急いでおり、この4月には3号校を開設する予定です。
「自立」の一助を
伊藤: 「ネイスぷらす」でも、お子さんをもっと褒めるよう、親御さんたちに働きかけていきたいとお考えですか?
南: そうですね。分かりやすいデータを示しながら、褒めることの大事さを伝えていきたい。「ネイス体操教室」や「ネイスぷらす」以外の事業も計画しています。今後は心を育てるために有効とされている運動以外の文科系教室を始めたいと考えています。
二宮: 確かに誰にも得意不得意はありますからね。
南: 私たちの取り組みは「すこやかなカラダ、しなやかなココロ」をつくるためのサポートです。もっと具体的にいうと、ココロが育つ環境づくりです。体操教室の中でコミュニケーション力や自己肯定・自己効力が自然と身につくプログラムを提供しています。今の私たちの取り組みが、子どもたちが将来大きくなったときの「自立」の一助になれば幸いです。
二宮: それが南さんの考える「共生」につながると?
南: はい。共に生きると書いて「共生」。私の考える共生は「個々の自立」です。例えば、道で困っている人がいた場合、「手伝いましょうか」と声を掛ける側も、もう一方が「手助けてしてほしい」と求めるのも、どちらかが何らかのアクションを起こす必要があります。私はこのコミュニケーションが取れる状態を“自立している”と捉えている。この“自立している人”が増えれば、結果として共生になると考えています。
伊藤: 今後に向けて取り組んでいきたいことは?
南: 今は体操教室をはじめ、発達支援事業、商品開発事業のみですが、今後は文化系の教室や海外への展開なども考えています。社名のNEISはNew! Exciting! Interactive! Smile!の頭文字をとっているんです。わくわくしながら、仲間と共に笑顔を増やしていきたいと思っています。
(おわり)
<南友介(みなみ・ゆうすけ)プロフィール>
ネイス株式会社代表取締役。1980年、大阪府出身。体操選手として全日本高校選抜選手権大会に出場、個人総合3位の成績を収めた。のちにアテネ五輪で金メダリストとなる冨田洋之や水鳥寿思らと共に日本代表選手として海外での試合にも多数出場。日本体育大学進学後、2000年の全日本選手権種目別平行棒で準優勝した。しかし在学中に大怪我を負い選手生活を断念する。現役引退後、会社員を経て29歳で体操教室の運営会社を起業。“すこやかなカラダ”“しなやかなココロ” を育てることに重点を置いた「ネイス体操教室」を首都圏中心に49校開校し、子育て世代の保護者から多くの支持を得ている。著書に『子どもの才能は脳育体操で目覚めさせる!』がある。また日本バク転協会の顧問を務める。