サッカー日本代表が7大会連続7度目となるワールドカップ出場を決定しました。オーストラリア戦は2対0、ベトナム戦は1対1という結果は既に皆さんもご存じかと思います。今回は「オートマチックなかたちの構築の大切さ」について語りましょう。

 

 「サイドを抉れ」の真意

 

 オーストラリア戦の1点目は良い形でした。DF山根未視(川崎フロンターレ)が右サイドからペナルティーエリア内ニアサイドのMF守田英正(サンタクララ)に強引に当ててタッチライン際に走る。守田からのリターンが長かったですが、何とか追いつき、マイナスのクロス。これを三笘が右足インサイドで流し込みました。現代サッカーでは「ポケット」と言われるスペースを山根と守田の連係で突き、三笘が合わせました。

 

 あの得点は大きなヒントになると思います。

 

 サイドを深く抉られてクロスを上げられると相手DFは対処がどうしても難しいんです。なぜ厄介なのか――。ボールホルダーを見ようとすると、エリア内に走り込んでくる攻撃陣から一瞬、目を切らざるを得ないからです。目を離した隙に、マーカーがニアに突っ込むのか、ファーに逃げられるのか、敢えて止まっているのか……。この確認ができなくなります。だから、「ポケットをつけ」「深い位置からクロスを入れろ」と言う指導者が多いんです。

 

 したがって、いかに深くサイドを抉るか、抉った後はどうするのか、という約束事を構築してほしい。たとえば、右ウイングがタッチラインを背にしてボールを持ったとしましょう。この瞬間、片方のインサイドハーフはどう動いて相手のセンターバックの注意を引きつけるのか。右サイドバックはどうボールホルダー(右ウイング)を追い越すのか。センターフォワードはどう動き、エリア内で相手DFと駆け引きをするのか。左ウイングはどこに走り込むのか。エリア内には最低、何人飛び込むのか」といった決まり事です。

 

 スペースを突くセオリーがあると、ペナルティーエリア内の状況を見なくてもノールックでクロスを上げられます。そこに味方が走り込んでいないなら、ボール保持者(クロッサー)の責任ではなく、ランニングを怠ったボール非保持者の責任です。クロスを上げた山根の「中は見ていないが(三笘)薫がマイナスに走り込んで来ると思った」というコメントが良い証拠です。

 

 セオリーはバレてもOK

 

 セオリーはビデオスカウティングで研究されても良いんです。セオリーを相手DFに植えつけることもひとつの駆け引きです。そこから初めて「アドリブ」や「選手の個の力による単独突破」が生きてくるんです。

 

 少々厳しい言い方になりますが、森保ジャパンはまだ「グループでどうサイドをつくのか」というセオリーが決まっていないように感じます。三笘もしくは伊東の単独突破に頼るところが大きい。ベトナム戦では三笘と伊東に対峙するサイドバックに加え、サイドハーフがカットインのコースを切ってきました。この状況で単独突破がメイン戦術だとなかなか厳しい。一個人の限界がチームの限界になっては打つ手がありません。

 

“川崎Fトリオ”による得点を見て僕は「あぁ、(川崎F監督の)鬼木だな」と思いました。僕と鬼木は鹿島アントラーズでの現役時代、神様(ジーコ)にあのかたちの重要性を口酸っぱく指導されました(笑)。森保監督にはオートマチックなかたちの構築を期待します。W杯本番までの宿題といったところでしょう。

 

●大野俊三(おおの・しゅんぞう)

<PROFILE> 元プロサッカー選手。1965年3月29日生まれ、千葉県船橋市出身。1983年に市立習志野高校を卒業後、住友金属工業に入社。1992年鹿島アントラーズ設立とともにプロ契約を結び、屈強のディフェンダーとして初期のアントラーズ黄金時代を支えた。京都パープルサンガに移籍したのち96年末に現役引退。その後の2年間を同クラブの指導スタッフ、普及スタッフとして過ごす。現在、鹿島ハイツスポーツプラザの総支配人としてソフト、ハード両面でのスポーツ拠点作りに励む傍ら、サッカー教室やTV解説等で多忙な日々を過ごしている。93年Jリーグベストイレブン、元日本代表。

*ZAGUEIRO(ザゲイロ)…ポルトガル語でディフェンダーの意。このコラムでは現役時代、センターバックとして最終ラインに強固な壁を作った大野氏が独自の視点でサッカー界の森羅万象について語ります。


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