かつて体重100㌔を超える選手は、プロ野球のスカウトにとっては指名の“対象外”だった。足が遅く、動けないと判断されたためである。

 

 

<この原稿は2022年4月17日号『サンデー毎日』に掲載されたものです>

 

 しかし、近年、そうした傾向に変化が生じてきた。きっかけは、“おかわり”の異名をとる中村剛也(埼玉西武)が頭角を現してきた頃からだろう。

 

 「動けるデブ」を自称する中村は、6回の本塁打王、4回の打点王とともに、総合力が求められるベストナインにも三塁手として6回選出されている。

 

 中村の後を追ったのが“どすこいポーズ”で有名な山川穂高(同)だ。一塁手として本塁打王とベストナインに2度ずつ輝いている。

 

 2人の活躍により自信を深めた西武は、2020年のドラフトで体重112㌔の渡部健人(桐蔭横浜大)を1位で指名し、獲得した。巨漢に似合わぬ50㍍6秒3の俊足が売り物だ。

 

 昨季、32本塁打を放ち、入団6年目で本塁打王に輝いたオリックスの杉本裕太郎も体重104㌔の巨漢だ。青山学院大、JR西日本を経て10位で入団した。身長も190㌢と長身で「ラオウ」(漫画『北斗の拳』の登場人物)のニックネームで親しまれている。

 

 この杉本のキャリアと重なるのが、同じように大学(東洋大)、社会人(大阪ガス)を経て6位で広島に入団した末包昇大だ。

 

 横浜DeNAとの開幕戦では7番ライトでスタメン出場し、“セ新人初”の開幕戦3安打&決勝打をマークした。

 

 その後も末包は打ち続け、3連戦で11打数5安打1打点。「ポスト鈴木誠也」と呼ぶのは早計だが、これ以上ないデビューを飾った。

 

 この末包、身長188㌢、体重110㌔の偉丈夫。体形の割に足は遅くないと言われるが、機動力野球を売り物とする広島には、これまであまりいないタイプの選手だった。

 

 ところが、鈴木誠也がポスティングシステムを利用して海を渡ったことにより、即戦力外野手が必要になってきた。即戦力と言えば社会人だ。広島は3位で中村健人(トヨタ自動車)も獲得した。中村も身長183㌢、体重90㌔と堂々たる体躯の持ち主である。

 

 末包が社会人時代、鈴木誠也のバッティングフォームを参考にしたことはよく知られている。それが覚醒のきっかけとなった。キャンプ中には憧れの先輩から電話をもらい「センターを中心に打て」とアドバイスを受けたという。

 

 開幕3連戦で放った5本のヒットのうち2本がセンターから右だった。打球方向はルーキーの調子を測る上でのバロメーターになりそうだ。

 

 おそらく今後は内角を攻められるケースが増えてくるだろう。そこが苦手と分かれば、プロのピッチャーは、それこそ傷口にシオを塗るように、徹底的に攻めてくる。

 

 詰まってでもいいから、無理に引っ張ろうとせず、センターから右に弾き返すことができるようになれば本物だ。ポテンヒットもヒットのうちだ。どんな成長曲線を描くのか楽しみな巨漢ルーキーである。

 


◎バックナンバーはこちらから