新国立競技場になって初のJリーグ開催となったのが4月29日のFC東京とガンバ大阪の一戦。400発以上の花火があり、ピッチ上では炎が上がり、ホーム側のFC東京が試合前にピッチ上で円陣を組むとそこに青赤のライトが当たるという演出は、雨のなか集まった4万人以上の観客を楽しませた。

 

 大観衆の効果もあってか、両チームは熱いファイトを見せてくれた。

 

 コロナ禍のルールで声出し応援禁止のなか、記者席で筆者が思わずマスク越しに声を漏らしそうになったのが後半12分。青森山田高卒のスーパールーキー、松木玖生のシュートシーンだ。新国立一発目の試合、翌日が19歳の誕生日……スター候補生にはこれ以上ないJ初ゴールのシチュエーションが訪れただけに、思わず私も前のめりになってしまった。ペナルティーアーク手前のやや右から枠を捉えた強烈な左足ミドル。だがここはGK一森純が左手でゴール上へ弾き出している。

 

 このシーンを演出したのが右サイドバックに入る35歳のベテラン、長友佑都だった。左サイドの密集地帯からディエゴ・オリヴェイラが逆サイドの長友にパスを出したものの、G大阪の左サイドバック・藤春廣輝に渡ってしまう。だが処理にもたついているところに長友がサッと詰めて右足アウトサイドでスッと松木にボールを渡して前方へスプリントを掛けている。

 

 長友とペナルティーエリア近辺にいたチームメイトが前に向かうことで相手の足を止め、松木は随分と打ちやすかったはずだ。ただ選択肢としては長友にリターンを送ってクロスもあった(スプリントした長友がペナルティーエリア内のポケットに侵入し、かつゴール前に3人が入っていた)。

 

 シュートが弾かれた後、松木は悔しそうに天を仰いだものの、長友は「あれでいいんだ」とばかりに拍手を送る仕草を見せた。次に同じようなシチュエーションが来ても、きっと松木はシュートをファーストチョイスに置くだろう。ベテランのちょっとした振る舞いが、若手の積極性を引き出しているのだと理解できた。

 

「右サイドバックの長友」にはベテランらしい味がある。

 

 メリハリが利いている。読み、駆け引きに長け、守備の安定に一役買うとともにチャンスになれば一気に出ていく。無駄走りも厭わず、走力も最後まで落ちない。コンディションがかなり上がってきているように感じる。

 

 左サイドバックでは2番手の位置づけだから右に回ってきた、という解釈を筆者はしていない。左利きの小川諒也を左、右利きの長友を右に置くのは言わばセオリー。むしろこの形で定着していくと見ている。

 

 日本代表でのキャリアを考えても長友には「左」の印象が強すぎるが、欧州では右でも起用されてきた。インテル時代、中盤を含めて複数のポジションをこなすことについて彼がこう語ってくれたことがあった。

 

「簡単じゃないですよ。どのポジションであろうとも結果を求められるし、ポジションを言い訳にはできない。そのプレッシャーのなかで自分のプレーをするというのはかなりいい経験になっています」

 

 左サイドバックとしてプライドを持ちつつも、どのポジションであろうともポジティブに受け止めて結果を出していこうとしてきた彼の歴史がある。彼が尊敬の念を抱いてきた元アルゼンチン代表のハビエル・サネッティもまさに右だろうが左だろうが、一列ポジションを上げようが器用にこなしてきた。チームが必要とするポジションをただただやり切るだけ。サネッティの姿勢を長友もずっと見てきたはずだ。前向きな姿勢と使命感が、35歳のベテランを躍動させている。

 

 昨年は日本代表でパフォーマンスが上がらず、バッシングを受けてきた。「左サイドバックは長友でいいのか」という声が広がっていたのは事実だ。

 

 だが彼はそれをモチベーションにしてきた。イタリアでもそうだった。「ハラキリしなければならないほど誤ったプレー」「サムライスピリッツと“バンザイ”と叫ぶようなタックルだけでは不十分」「NAGATO-NO!」などなどプレーが悪ければイタリアの新聞から痛烈な批判も受けてきた。打たれ弱いナイーブさがあれば、インテルで8シーズンもプレーなどできないだろう。周囲のネガティブな見方は逆に彼にとってはエンジンとなる。その巻き返しの前兆を新国立でのガンバ戦でも感じることができた。

 

 慣れ親しんだ左から離れて右に回るのは決して“都落ち”などではない。むしろ反撃のきっかけにしてしまうのが、長友佑都という男である。


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