緊急出動であっても、38歳のベテランがピッチに立てばチームがビシッと締まる。

 この日もそうだった。現地時間5月18日、セビージャのホームスタジアムであるエスタディオ・ラモン・サンチェス・ピスフアンで開催されたフランクフルトとレンジャーズによるEL決勝。42年ぶりの優勝を目指すフランクフルトは鎌田大地が先発し、チャンスを演出するもなかなかゴールまでには至らないもどかしい展開が続いた。逆に後半12分、カバーに回ったルーカス・トゥタが足を滑らせてしまい、ジョー・アリボに先制ゴールを与えてしまう。嫌なムードが立ち込めるなか、そのトゥタに代わって長谷部がイン。するとチームに喝を入れるようにバチバチのファイトを見せていく。

 

 3バック中央でアリボにニラミを利かし、競り合いに勝ってマイボールにして攻撃につなげていく。周りを動かし、自分も動く。相手のロングボールに対して積極的に出ていき、空中戦も負けていない。一方、ラインコントロールに注意を払い、全体をコンパクトにして守備を修正する役割を果たした。長谷部の投入によってチームが活性化したのは明らか。サントス・ボレの同点弾を呼ぶ流れをつくった。

 

 キャプテンマークを巻き、熱く、冷静に。集中力を切らすことなく、延長に入っても追撃を許さなかった。PK戦を制しての優勝劇。長谷部によってチームの安定を回復させたことが大きな勝因だったように感じた。

 

 大事な場面になればなるほど、頼りがいがある。

 長谷部のプレーを眺めているうちに2018年ロシアワールドカップのことが思い出された。グループリーグ第3戦のポーランド戦。メンバーの入れ替えによってベンチに回ったが、難しいミッションを完遂するには彼の力がどうしても必要だった。

 

 0-1でリードされる展開ながら、もう1つのカードはコロンビアがセネガルに1-0で勝っている状況。2試合ともこのままで終われば、日本はフェアプレーポイント差で2位通過できる。長谷部は3人目の交代として西野朗監督に呼ばれた。

 

「このまま(のスコア)でいい。(チームの)イエローカードには気をつけてくれ」

 

 最小失点にとどめ、フェアプレーポイントも考慮したうえで終えなければならない。仮にセネガルが追いついたら、日本は転じてゴールを奪いにいかなければならない。

 

 ポーランドのカウンターに手を焼いていた守備に安定をもたらした。ボールに食いつかず、スペースを埋めてカウンターの芽をつぶしておく。試合がつまらないとばかりに巻き起こるブーイングを浴びても動揺はなかった。

 

 コロンビア―セネガル戦の状況をピッチ上の選手たちに伝えていた。「後ろは失点しないように」と声の届きやすい長友佑都を通じて全員に共有させた。チームが混乱することはなかった。それもこれも長谷部のタクトがあったからだ。

 

 このロシアワールドカップを最後に、長谷部は日本代表から引退した。そしてフランクフルトでのプレーに専念し、大黒柱としてチームを支えてきた。

 

 38歳にして、このパフォーマンス。日本代表復帰の可能性はないものか--。

 

 森保一監督は欧州視察の際、EL準々決勝フランクフルト-バルセロナのファーストレグ(4月7日)を現地で観戦している。この試合、長谷部に出場機会はなかったものの、指揮官はカタールワールドカップを見据えてスペイン代表が多く在籍しているバルセロナを分析していたに違いない。帰国後、こう語ってくれた。

 

「3バックを基本に対応してビルドアップをうまく止めて攻撃に出ていくカウンターは参考になりましたね。コンパクトに戦うところを実践していかないとやはり勝つ確率が上がっていかないな、とも。昨年の欧州ネーションズリーグ決勝ではフランスが3バックでスペインに勝って優勝しています。3バックは(サンフレッチェ)広島時代にずっとやっていましたから、いつでも変えられるとは考えています」

 

 つまり4バックのみならず、選択肢として3バックのオプションもあるということ。

 

 代表を引退していなければ、フランクフルトで3バックの中央でプレーすることの多い長谷部が候補に挙がってくるのは至極当然でもある。コンパクトに戦う術にも長けているからだ。また、ドイツで長年プレーしているだけに、カタールワールドカップ初戦でドイツ代表とぶつかることを考えても「長谷部がいてくれたら」とも思う。メンバーも23人から26人に増加するのであれば、先発、控えいずれの立場でも頼もしくプレーできる長谷部の存在はとてつもなく魅力的に映るのだ。

 

 こうやって述べたところで長谷部本人に代表復帰の意思がなければ、意味をなさないことは理解している。頼れる男の圧倒的な存在感。フランクフルトの優勝セレモニーを眺めながら、長谷部がいる森保ジャパンを勝手に想像して心を躍らせてしまう自分がいる。


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