欧州の21~22シーズンもいよいよ最終盤にさしかかってきた。各国でさまざまなドラマが展開されている。

 

 まず感動的だったのは4月23日に行われたスペイン国王杯の決勝だった。ベティス対バレンシアは、1-1のまま延長戦でも決着がつかず、PK戦にもつれ込んだ。1人目のキッカーがどちらも成功したあと、ベティスが2人目に出してきたのは、02年のW杯日韓大会でもプレーした、40歳のホアキンだった。

 

 17年前の国王杯優勝を知る唯一のメンバーでもあるホアキンは、慎重に左隅を狙った。反応するGK。伸びた手がボールのコースを変えた……が、一歩及ばなかった。ホアキンとベティコ(ベティスのファン)の思いを乗せた一撃は、辛くも左ポストぎりぎりに吸い込まれた。直後に映し出されたスタンドには、心臓が止まりかけた、とでも言いたげなベティコの姿があった。

 

 結局、1人失敗したバレンシアに対し、全員が決めたベティスは17年ぶり3度目となる国王杯を勝ち取った。最初にカップを受け取り、何度も何度も天に突きあげたのは、もちろんホアキンだった。

 

 歓喜に沸いたベティコたちには、のちほど、嬉しいサプライズが待っていた。今季限りでの引退を発表していたホアキンの、現役続行宣言だった。

 

 現在プレーオフに突入しているベルギーリーグでは、優勝争いがまったくわからなくなった。三笘薫や町田浩樹を擁し、首位を快走してきたサンジロワーズが2位クラブ・ブリュージュに敗れ、勝ち点で並ばれたのである。

 

 ベルギーリーグのシステムは一風変わっている。レギュラーシーズンを終えたあと、上位4チームが優勝を決定するプレーオフへと進む。それまで獲得した勝ち点を半分にした上で、総当たり2回戦制を制したチームが、優勝とCL出場権を獲得する、という仕組みなのだ。

 

 レギュラーシーズンで勝ち点77を獲得し、勝ち点72だった2位クラブ・ブリュージュに「5」勝ち点差をつけたサンジロワーズだったが、プレーオフはそれぞれ勝ち点39と36からのスタートとなった。得失点差はリセットされるため、野球でいうところのゲーム差「1」ピッタリである。

 

 両チームともに2試合で勝ち点を「4」上乗せし、プレーオフ開始時点と変わらない条件で迎えた直接対決。ホームで戦うサンジロワーズは、勝てば勝ち点差を「6」とし、87年ぶりの優勝に大きく近づく。試合は、立ち上がりからホームチームが完全に支配する展開となった。

 

 だが、再三の好機を相手GKの超美技などに阻まれ、さらに後半開始早々にあったPKのチャンスを外したことで、流れは変わる。そして73分、クラブ・ブリュージュにとってはこの試合最初の枠内シュートをゴールネットにたたき込まれて失点。総攻撃に出たアディショナルタイムには、完全に無人となったゴールまで2人がかりでボールを運ばれ0-2。懸命に追った三笘が覚悟のプロフェッショナル・ファウルで止めようとしたが、及ばなかった。

 

 いかなるカテゴリーであれ、優勝は選手の人生を変えることがある。激戦の末の優勝ならばなおさらのこと。ホアキンの人生は変わったが、さて、三笘や町田の場合はどうか。個人的には、5大リーグの最終盤以上に楽しみな、ベルギーリーグの残り3試合である。

 

<この原稿は22年5月12日付「スポーツニッポン」に掲載されています>


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