素材メーカーが医療機器を作る――。前代未聞の挑戦が始まったのは今から3年前のことだ。これまで素材メーカーとして高い技術を誇り、水着やウェットスーツなどで革命を起こしてきた山本化学工業が、ついにその挑戦を結実させた。素材メーカーが医療分野へと歩を進めた理由はなんだったのか。

「すべての人がより安全に、より快適に、より楽しく健康を手に入れることのできる社会を作りたい」。山本富造社長が語る夢が、これまでにない製品の開発につながった。ウェットスーツや水着で培った技術とアイディアを、すべての人のために役立つ方法はないか。そこから行き着いたのが“着圧機能”を持ったスポーツウェアへの発想だった。

 着圧機能とは、必要な部位のみに引き締め効果を施す機能のこと。体の一部に一定の力をかけ、血液を早く心臓に還すことで、心臓にかかる負担を軽減させるのが狙いだ。心臓から血液を全身に送るためには、強力な力が必要となる。人間の体の中で最も心臓から遠いのはつま先だ。末梢へもしっかりと血液を送る手助けをするために、山本化学工業は下半身に着用する“着圧機能付きスポーツウェア”となる基本技術を誕生させた。このウェア等を着用することで、足首からふくらはぎ、太腿、腰にかけて、医療機器として定義付けられた締め付け効果によりそれぞれの部位に適した圧力をかけられる。これにより、つま先までスムーズに血が流れることを助け、さらには再び上半身へと駆け上がる一助ともなるのだ。

 この機能を保持したスポーツウェアの基本ギアが先頃、一般医療機器として認められたのだ。医療機器を製造・販売するためには厚生労働省の許可を受けなければならない。このスポーツウェアの基本ギアは医療機器として国から認められ、その効果・効用の有用性が保証された製品なのだ。世間には様々な効果を謳ったスポーツウェア等があるものの、医療機器としてその性能を保証されたものはこれまでになかった。高い技術力を誇る同社だからこそできた、全く新しい概念のツールと呼べる。

 病気の人だけでなく、全ての人へ

 このスポーツウェアの基本ギアは、現時点では心臓の弱い人やご高齢者の生活をサポートするための製品となっている。だがすでに、この製品がバージョンアップするための道筋も考案されている。「今は中高年でもスポーツを楽しまれたい方が増えています。しかし、歳を重ねるごとにどうしても心臓が弱くなってしまう。そうした人たちが運動するための体を手に入れるお手伝いができればと思っています」と山本社長。続けて、こう語った。「病気がちな人だけでなく、全ての人へ製品を届けたい」。

 では具体的にどのような場面で近い将来“着圧機能”が活躍するのか。例えば鮎釣り。川に下半身を浸けながら釣りを楽しむ愛好家は、長時間水中にいることで、体温の低下は避けられない。体が冷えることで血流が悪くなり、心臓には大きな負担がかかる。川の中で心臓発作が起こるような場合、命の危険にさらされることにもなる。

 そこで着圧機能を持ったフィッシングタイツがあれば、下半身に適切な圧力を加えることで血流を高いレベルで保ち心臓への負担を軽減する。さらにはこれまでウェットスーツなどで培った技術を転用すれば、保温性の高い製品が出来上がり体温低下の防止にもつながっていくのだ。
 釣り以外でも、ダイエット用、高速水着用、トライアスロン用、ウォーキング用、陸上競技用など、様々な方面への発展が期待される着圧機能スポーツウェア。高い技術を持った素材メーカーだからこそ開発できる“夢の製品”なのである。

「スポーツは若い人だけのものではありません。これからは高齢者や心臓の弱い人にもスポーツを楽しんで欲しい。そのために、このウェアがあるんです。多くの人が体を動かす喜びを感じてもらうために、社会の下支えすることができれば嬉しいですね」

 山本社長はそう結んだ。もはや山本化学工業の製品はアスリートのためだけのツールではない。

 山本化学工業株式会社