28日には新人選択会議(ドラフト)が行なわれ、30日からは千葉ロッテと中日との日本シリーズが開幕します。日本のプロ野球もいよいよ大詰めを迎えていますね。一方、海の向こうでは28日(日本時間)からジャイアンツとレンジャーズとのワールドシリーズが開幕します。アメリカンリーグ優勝チームのレンジャーズには昨季まで広島に在籍したコルビー・ルイスが先発の柱として活躍していることもあり、注目している人も多いことでしょう。広島ファンならずとも、馴染みのある選手の活躍は嬉しいもの。ワールドシリーズではどんなピッチングを見せてくれるのか、非常に楽しみです。
 さて、これまで数多くの日本人選手がメジャーに挑戦してきましたが、今オフには岩隈久志投手(東北楽天)がポスティングシステムでのメジャー移籍の意思を表明しています。果たして岩隈投手にどれだけのメジャー球団が興味を示すのか、今後の動向に注目したいと思います。

 しかし、最も気になるのは岩隈投手がメジャーで通用するのかどうか、ということではないでしょうか。今シーズンの日本人投手の成績を見てもわかるように、メジャーで力を発揮することは容易ではありません。では、日本人投手がメジャーで成功するための条件とはいったいどんなもなのでしょうか。これまで数多くの日本人投手を見てきましたが、安定したコントロールがあるか、これが最も重要ではないかと感じています。特にウイニングショットのコントロールが大事ですね。

 それを顕著に表していたのが、今シーズン、メジャー1年目ながら53試合に登板し、10勝6敗、防御率3.61の好成績を挙げた高橋尚成投手(メッツ)です。彼の決め球はシンカー。このシンカーのコントロールが安定していたことで、自信をもって自分のスタイルで投げることができたのです。加えて、巨人時代のリリーフ経験がいかされたということが大きかったと思います。

 一方、苦しいシーズンを送ったのが松坂大輔投手(レッドソックス)です。今シーズンの松坂投手は、いい時と悪い時との波が激しく、突如乱れて相手にビッグイニングを与えてしまうことも少なくありませんでした。その要因の一つとしてピッチングの攻め方がシンプルでなかったということが挙げられます。

 ピッチャーにはその試合その試合によって、調子のいい球種とそうでない球種があります。ですから、調子のいい球種を中心に配球を組み立てるのですが、松坂投手の場合はどの球種でも抑えられるようにしようというこだわりがあるように思われます。例えば、チェンジアップのキレが悪い時にも試合中に修正しようとするのです。特に中盤から終盤にかけて試すようなピッチングをする時があります。そしてそれを痛打され、失点を重ねてしまうわけです。

 松坂投手の最大の武器といえば、やはりストレートとスライダーです。この2つの球種で勝負のできるピッチャーなのですから、どの球種でもと完璧を求めずに、彼本来のピッチングをして欲しいと思います。この2つの球種はコントロールも安定していますから、これらをウイニングショットとして有効に使ってほしいのです。

 では、岩隈投手はどうでしょうか。彼がメジャーで通用するかどうか、その答えは「Yes」です。岩隈投手の武器は低めに伸びるストレートとフォークボールです。特にフォークボールは野茂英雄の全盛期時代を彷彿させるほど完成度が高くなっています。またストレートの低目へのコントロールは沢村賞、最多勝、最優秀投手など投手部門のタイトルを独占した2008年、打たれた本塁打がわずか3本ということからも、ずば抜けていることは証明済み。メジャーでもストレートとフォークボールのコントロールが安定させることができれば、十分に活躍することができると思います。

 あとはメジャーのストライクゾーンを考えた配球ができるかどうかでしょう。メジャーではインコースへの判定が厳しく、日本ではストライクとなるコースでもボールになってしまうのです。それに苦しんでいるのが井川慶投手(ヤンキース)です。彼は阪神時代、インコースへのコントロールが抜群でした。ところが、メジャーでは同じところに投げても、ストライクにならないのです。そこでチェンジアップでカウントを取ろうとするのですが、このコントロールが定まらず、四球でランナーを出してしまう。そして甘く入ったところを痛打されるというのがパターン化されています。そのためにメジャーでは評価は下がる一方というわけです。

 このような例もありますから、岩隈投手も内角へのボールを有効に使おうとはしない方がいいでしょう。もちろん、アウトコース一辺倒では打たれてしまいますから、インコースへのボールは深く踏み込んでアウトコースを狙う打者に対する見せ球として考えるべきです。環境面でも、ボールの質やマウンドの傾斜、高さなど日本とは異なる点がたくさんあります。そのことを踏まえて対応していかなかければならないわけですが、あまり意識しすぎてもよくありません。日米の違いを念頭に置きながらも、決して自分自身を見失わないこと。それがウイニングショットのコントロールを安定させ、ひいては岩隈投手がメジャーで成功する第一の条件となるはずです。

佐野 慈紀(さの・しげき) プロフィール
1968年4月30日、愛媛県出身。松山商−近大呉工学部を経て90年、ドラフト3位で近鉄に入団。その後、中日−エルマイラ・パイオニアーズ(米独立)−ロサンジェルス・ドジャース−メキシコシティ(メキシカンリーグ)−エルマイラ・パイオニアーズ−オリックス・ブルーウェーブと、現役13年間で6球団を渡り歩いた。主にセットアッパーとして活躍、通算353試合に登板、41勝31敗21S、防御率3.80。現在は野球解説者。
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