今シーズンのプロ野球も最後まで見ごたえたっぷりでしたね。5年ぶりに日本一に輝いた千葉ロッテは、ペナントレースでは3位ながら、クライマックスシリーズ(CS)、日本シリーズと見事な戦いを見せてくれました。その他の球団も熱戦を繰り広げ、野球ファンを十分に楽しませてくれたと思います。10月28日には新人選手選択会議が行なわれ、97人(育成含む)の選手が指名されました。現在はFAなどでの移籍交渉も活発化しており、各球団の戦力アップが図られています。果たして来シーズンはどの球団が日本一の座を獲得することができるのか、今から非常に楽しみです。
 さて、今シーズンの活躍を称え、18日のコンベンションでは各賞の受賞者が表彰されました。リリーバーだった私としては、やはり注目は最優秀中継ぎ投手。今シーズンはリーグ優勝に大きく貢献した摂津正、ファルケンボーグ(ともに福岡ソフトバンク)と、浅尾拓也(中日)が選ばれました。もう、これは文句なしと言っていいでしょう。

 私が現役時代は、彼らのようなセットアッパーという役割は確立されておらず、リリーバーは勝ちゲーム限定ではありませんでした。その時々で、ブルペンにいるピッチャーの中で調子のいい者から出していくというのが主なリリーバーの起用法だったのです。しかし、今では前述した彼らのように、どの球団にもセットアッパーがしっかりと固定され、クローザー同様、その場面を任せられるようになっています。

 その中でセットアッパーとして必須なのが、ウイニングショット。現在はただ球が速いというだけでは抑えることはできません。落差のあるフォークボールやキレのあるスライダーなど、絶対的に自信のあるボールが必要です。こうした面はクローザーと似通ってきていますね。

 人それぞれの受け止め方に多少の違いはあると思いますが、ゲームを締めにいくクローザーとは違い、リリーバーはゲームの流れを支配するという点に醍醐味があります。クローザーは必ずチームがリードしている場面ですから、そのほとんどがいい流れの中でマウンドに上がることができます。しかし、リリーバーは試合の終盤、どちらに転ぶかわからない場面で上がります。しかもピンチであることも少なくありません。そのため、相手の勢いにのまれやすく、結果によってはチームの勢いを消してしまいかねません。ですから、そのプレッシャーに屈せず、打者に向かっていく勇気が必要なポジションなのです。

 日本新記録となる59ホールドポイントを達成した浅尾は今シーズン、自分自身の投げるボールに対して非常に自信をもっていたように感じられました。特にストレートのキレがよかったですね。そのため、セ・リーグの打者がその気負いに押されて面食らっていました。新人の頃、彼は確かに球速はありましたが、インサイドを突くことができていませんでした。しかし、今ではバンバン、インサイドを攻めています。これは捕手の谷繁元信の好リードも要因の一つとなっているのでしょう。

 しかし、CSや日本シリーズでは守りに入ってしまったところが垣間見られました。これはリリーバーとしては絶対にしてはいけないことです。レギュラーシーズンで見せていた、結果を怖れない強い気持ちをもう一度思い起こすことができれば、来シーズンも活躍すること間違いないでしょう。

 さて7年ぶりにリーグ優勝を果たしたソフトバンクでは、摂津とファルケンボーグの活躍が光っていました。摂津はルーキーイヤーの昨シーズン、70試合に登板し、5勝2敗、防御率1.47という好成績を残し、見事、新人王に輝きました。今シーズンも71試合に登板し、4勝3敗1セーブ、防御率2.30。もはやチームにはなくてはならない存在となっています。

 しかし、防御率は昨シーズンと比べると落ちてしまいました。その要因のひとつにはピッチングのテンポが単調になりがちだったことが挙げられると思います。彼はテンポが速く、どんどんストライクをとりにいきます。そのため、打者に考える余裕を与えないのです。それが彼の持ち味でもあり、成功している要因でもあると思います。しかし、シーズン終盤、疲労に伴ってボールのキレがいまひとつの場面では、その積極性が返って打者有利となっていたのです。もちろん、前述したようにリリーバーはどんな場面でも守りに入ってはいけません。いつでも攻めの姿勢が重要ですが、加えて慎重さも必要です。同じ球種でもテンポを変えたり、緩急を使ったりして単調にならない工夫を凝らすことができるようになれば、摂津はさらに成長することでしょう。

 ファルケンボーグは、1年目の昨シーズン、1.74という防御率で抜群の安定感を見せてくれましたが、今シーズンは何と1.02をマーク。まさに助っ人としての役割を十分に果たしてくれています。2メートルの長身から投げ下ろされるボールは角度があり、打者としては非常に打ちにくいのです。しかもコントロールもよく、ストライク先攻のピッチング。外国人特有のテンポの速さがありますから、打者は考える余裕も与えられずに追い込まれてしまいます。これでは苦戦するのも無理はありません。

 最近、外国人投手でセットアッパーとして成功した例といえば、元阪神のジェフ・ウィリアムスでしょう。彼はヒザ元にキレのあるストレートを投げることができました。これが彼の成功した最大の要因です。例えば、クローザーではありますが、同じ外国人投手のマーク・クルーンがいくらスピードがあっても安定した成績を収めることができなかったのは、このカウントのとれるヒザ元へのコントロールがなかったからです。

 ファルケンボーグにもジェフ・ウィリアムス同様、低めへのコントロールがあるからこそ、安定感のあるピッチングができているのです。つまり、それこそが彼の生命線となっているのです。来シーズンもこれさえあれば、ベンチの信頼に応えたピッチングを見せてくれることでしょう。

 そのほか、来シーズンの活躍が期待できるセットアッパーとしてはセ・リーグは西村憲(阪神)です。彼はストレートのキレがよく、低めへのコントロールも十分にあります。そして何よりも「打ち取ってやる」という思いっきりのよさが今シーズンの活躍につながったと思います。しかし、シーズン中盤以降は疲労もあったのでしょう、その思い切りのよさが徐々に失われ、腕の振りも調整したような感じになってしまいました。来シーズンはぜひ、思いっきり腕を振った彼本来のピッチングを、シーズンを通して見せて欲しいですね。

 パ・リーグでは日本一となったロッテの伊藤義弘と内竜也です。両投手ともCSや日本シリーズでは本当によく投げたと思います。とはいえ、彼らにも課題はあります。内は変化球の精度がもう少し欲しいところ。せっかくあれだけのスピードがあるのですから、緩急をいかし、ストレートに威圧感を持たせてほしいと思います。一方のルーキーの頃からリリーバーとして期待されてきた伊藤は、右打者へのインサイドボールが課題です。今以上に厳しく攻めることができれば、さらに飛躍すると思います。

 今シーズンの日本シリーズを見ても、今や日本のプロ野球は、セットアッパーなくして勝つことができないと言っても過言ではありません。それだけ認められ、存在価値が高まっているということでもあります。果たして、来シーズンはどんなセットアッパーが登場し、どんな成長が見られるのでしょうか。ぜひ、先発、クローザーとともに注目して欲しいと思います。

佐野 慈紀(さの・しげき) プロフィール
1968年4月30日、愛媛県出身。松山商−近大呉工学部を経て90年、ドラフト3位で近鉄に入団。その後、中日−エルマイラ・パイオニアーズ(米独立)−ロサンジェルス・ドジャース−メキシコシティ(メキシカンリーグ)−エルマイラ・パイオニアーズ−オリックス・ブルーウェーブと、現役13年間で6球団を渡り歩いた。主にセットアッパーとして活躍、通算353試合に登板、41勝31敗21S、防御率3.80。現在は野球解説者。
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