今冬もまた、赤き精鋭たちがラグビーの聖地・国立競技場で躍動する――。2009年度、悲願の初優勝を達成した帝京大学ラグビー部。昨年度は大学ラグビー界の雄・早稲田大を破っての連覇を果たし、その実力がホンモノであることを証明した。そして今年度、彼らが挑戦するのは、約半世紀を誇る選手権の歴史の中で、同志社大(1982−85)だけが達成している“3連覇”だ。今回は関東大学対抗戦を初の全勝優勝で飾り、満を持して選手権に臨む。「ENJOY&TEAMWORK」をモットーに、進化し続ける帝京大ラグビー部。チームの現状、そして選手権への意気込みを当サイト編集長・二宮清純が岩出雅之監督、森田佳寿キャプテンに訊いた。

二宮: 関東大学対抗戦では初めての全勝優勝、おめでとうございます。大学選手権に向けて、弾みがついたのでは?
岩出: ありがとうございます。選手一人一人にとって、そしてチームにとって、この優勝をとても大きいものと感じ、大変嬉しく思います。ただ大切なことは、この嬉しさをエネルギーにして選手達がより一層の成長を目指すことだと考えています。

二宮: 森田選手は今年、キャプテンに任命されました。それだけに、対抗戦の全勝優勝は喜びもひとしおだったのでは?
森田: 春からの努力の積み重ねが、全勝優勝につながったと思いますので、それに関してはすごく嬉しいですね。ただ、内容としては満足できるものではありませんでした。それでも早慶明を破って全勝というかたちで終われたのは、一つひとつの局面で選手たちがどうすべきかを考えられるようになったからだと思います。

二宮: 一昨年、昨年は対抗戦では4位という結果ながら、そこで見えた課題を修正して、ピークを選手権にもっていきましたよね。そういう意味では、例年以上に今年のチームは仕上がりが早い。
岩出: 毎年、大学選手権の決勝戦から逆算してチームをつくる中で、選手たちに無理のないプランを立てながら仕上げていくようにしています。そういう意味で昨年まではスロースターターのイメージがあったのかもしれませんね。しかし今年は、連覇を達成したベースが既に出来上がった状態からスタートしていますから、これまでよりも早い段階でチームを仕上げていくことができています。

二宮: 「ベース」というのは、岩出監督が就任当初から重要視してきた、いわゆる“勝てる風土”が出来上がりつつあると?
岩出: そうですね。キャプテンの森田を中心に、上級生がそれぞれ自分たちの役割をきちんと果たしている。その姿を、下級生が手本にしながら進んでいる。そういう風土が感じられます。

二宮: 森田選手自身が目指すキャプテン像とは?
森田: ひとつは自分の言動でチームを盛り上げていきたいなと。ゲームの時であれば、勝利につながるようなプレーをしたいと思っていますし、私生活でもチームがまとまるような言動を心掛けています。それと3連覇という目標に対して、決してブレずに、しっかりと道筋をたてていくこと。この2点を常に意識しながらやってきました。

 優勝へのカギは“挑戦心”

二宮: 3連覇を達成すれば、同志社大以来ということになるわけですが、プレッシャーには感じませんか?
森田: 僕たちの代で、さらに僕自身はキャプテンとして3連覇にチャレンジできるということが嬉しいですね。プレッシャーというよりは、純粋にワクワクしています。

二宮: キャプテンからは頼もしい言葉がありましたが、監督はどうご覧になっていますか?
岩出: 一番大事なことは挑戦心を持てるかどうかということだと思うんです。特に、今年は対抗戦で全勝優勝することができましたから、そのことに慢心せずに、さらに進化し続けていこうとするモチベーションを選手たちにもたせられるかどうか。3連覇という目標がプラスになるのであれば、どんどん意識すればいいし、逆にプレッシャーになってしまうのであれば、挑戦という方向にうまくもっていきたいなと思っています。

二宮: 今年も帝京大の最大のストロングポイントといえば、フォワードの強さということになると思いますが、それ以上にスタンドオフには森田選手、スクラムハーフには滑川剛人選手と、経験豊富な選手が重要なポジションにいる。これも今年の帝京の強みなのでは?
岩出: 明らかに彼らの存在は大きいですよね。森田、滑川がうまくゲームをコントロールしてくれています。

二宮: スタンドオフは司令塔というポジションですが、森田選手が目指す理想のスタンドオフとは?
森田: アタックの起点となるポジションですので、単にいいパスを放ったり、いいキックを使ってエリアマネジメントするだけでなく、自分自身が相手ディフェンスから脅威とされるようなしかけだったり、プレーをしたいと思っています。チームとしても、フォワードの強さとディフェンス力に加えて、アタック力の強化をしてきましたので、選手権でもポイントの一つになると思います。

二宮: いよいよ18日から選手権が始まります。昨年は初戦の関東学院戦で勢いをつけました。今年は九州学生リーグを制した九州工業大学と初戦を戦います。
岩出: 相手がどこというよりは、自分たちがどう戦うかが重要です。昨年は対抗戦で4位に陥り、しかも最終戦に敗れました。ですから、その敗戦の悔しさをエネルギーに変えて負のイメージを初戦で吹っ切ることができれば、戦略的には自分たちの強みを全て集約したものになっていましたから、一気に優勝できると確信していたんです。一方、今年はというと、全勝優勝できたからといって、守りに走るようなことがないように気を付けなければいけない。対抗戦での力を維持しようとするのではなく、逆に対抗戦ではまだまだ未熟だったのだから、選手権ではさらなる進化に挑戦していこうという気持ちをいかに奮い立たせられるかが重要になってきますね。

二宮: 今年は3月に震災がありました。スポーツの意義について考えさせられた1年でもあったと思います。
森田: 震災以降は僕たちも練習することができない時期があり、ようやく練習が再開できた時には、スポーツに没頭できる環境にいられるありがたさを身に染みて感じました。僕たちの勝利がどれだけの人に喜びを与えられるかはわかりませんが、少なくとも試合でどんなに苦しい場面でも、懸命にプレーする姿を見せることによって、何か伝えられるものはあるのではないかと思っています。選手権でも「ENJOY&TEAMWORK」というチームスローガン通り、どんな時も前を向いて、チーム全員で喜び合いたいですね。そして、その結果、3連覇につながれば最高だと思っています。




(斎藤寿子)
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