今シーズンは開幕前に東日本大震災が発生し、当初は野球そのものができるのか分からない状態からスタートしました。アイランドリーグでは被災地に向けて何ができるのか。結論として決まったのは、通常通り公式戦を開催する中で継続して募金活動を実施し、少しでも被災地のお役に立つことでした。ファンの皆様のご協力もあり、シーズンを通じて2,727,701円が集まり、全額、寄付をさせていただきました。皆様の温かいお心遣いに心から感謝するとともに、震災の被害に遭われた方々に改めて1日も早い復興をお祈りしたいと思います。
 今年を振り返ると、新たな試みとしてソフトバンク3軍との定期交流戦を行いました。よりNPBとの結びつきが強くなった1年と言えるでしょう。リーグとしては、この関係をもっと深めていきたいと考えています。この春にはNPB(日本プロ野球組織)に対し、PDC(Player Development Contract=選手育成契約)も含めた選手受け入れのシステムをつくっていただくようBCリーグと共同で要望を出しました。

 アイランドリーグの立ち上げから7年。まだまだ各球団の経営環境は劇的に改善されたわけではなく、赤字であることは変わりません。もちろん、すぐにリーグが消滅する事態には陥っていませんが、このままでは大きな発展も見込めないでしょう。昨年のこのコーナーでも紹介しましたが、現にMLBの球団から日本、韓国、台湾、中国などアジアでスカウトした選手を派遣して育成したいとの申し出がありました。これは私たちが何年もかけて地域の球団として根付き、球場をはじめとする環境を確保して試合を運営してきたことへの評価だとうれしく思っています。

 送り込まれる選手の年俸や経費などは派遣球団が負担するのですから、独立リーグにとっては経営面で大きなメリットがあります。ただ、アイランドリーグでは日本球界の発展のため、MLBサイドの申し出をこれまでは断ってきました。しかし、NPBとの協力体制を構築できないのであれば、リーグを存続するためMLBや海外のリーグと連携せざるを得ないでしょう。これはBCリーグと歩調を合わせて、NPBと引き続き、交渉を重ね、方向性を見出していければと思っています。

 来季に関してはソフトバンクとの交流戦を少なくとも今季同様の試合数(各球団8試合)で実施する見込みです。また、ソフトバンク戦での勝敗や個人成績をリーグの順位やタイトル争いに反映させることもNPBに許可を求めています。今季の対ソフトバンクは全球団が負け越しの結果に終わりました。やはり、NPBの選手は素材がよいだけに、実戦を積むと急速に伸びる面があるようです。しかし、リーグの選手たちも、彼らと同等の伸び率でなければ、上のレベルで戦うことはできないでしょう。来季も残留する監督、コーチ、選手たちは、この点を意識して新たなシーズンに臨んでほしいと感じています。

 そして来季はリーグとして新たな取り組みに挑戦します。米国の独立リーグから外国人選手を各球団で雇い、NPBへアピールする機会を設けます。この春にはエージェント会社と提携し、1年間かけて“ジャパニーズ・ドリーム”を叶えたい選手たちをスカウトしてもらいました。来季は向こうの独立リーグでトップクラスの選手たちが四国にやってくる予定です。なかには3Aでのプレー経験があったり、MLBのロースターに入っていたプレーヤーもいると聞いています。

 リーグでは外国人選手の年俸が経営を圧迫することがないよう、その一部を負担する仕組みをつくりました。これにより、まずファンの方には今まで以上に迫力のある野球を楽しんでいただけると考えています。また、外国人選手が晴れてNPBと契約を結べれば、その契約金の一部がリーグ、球団に入ります。興行面でも経営面でも外国人選手の加入がリーグにプラスをもたらしてくれることを期待しています。

 今季は観客動員の減少が課題として残りました。1試合あたりの観客数は昨季の647人から503人に。各球団とも軒並み観客が少なくなっています。“おらが県の球団”として地域により密着するには、やはり地元の方にたくさん応援していただけるチームにならなくてはなりません。ここ数年、アイランドリーグでは無料入場券のバラマキを改め、有料入場者を地道に増やす努力を重ねてきました。そのため観客動員が減っても、各球団の収支は改善傾向にあります。

 しかし、ある程度、経営が落ち着いてくれば、今度は攻勢に転じる部分も求められます。先に述べたように外国人の加入により、来季は野球のレベルが上がることが予想されます。こういった点を多くの方に知っていただき、試合をまず見ていただく機会を設けることも必要でしょう。

 加えて、各球団もより地域に浸透する努力が大切です。たとえば現在、香川県は“うどん県”として観光PRをはかっています。ならば、それにならって来季は香川のチーム名を“うどん”にしてはどうでしょう。新聞やネットに表示される結果もすべて、香川ではなく“うどん”。もちろん、オフのドラフト指名選手の所属チームも“うどんオリーブガイナーズ”として表記してもらいます。

 これは香川県のアピールに協力するだけでなく、チーム自体が全国の方に興味を持っていただくきっかけになります。独立リーグの球団だからこそ可能なアイデアです。生まれたての独立リーグはまだ、さまざまなトライをする時期です。なかにはうまくいかないこともあるでしょう。でもエラーを恐れてトライをしなくては何の発展もありません。来季以降もアイランドリーグはたくさんのチャレンジを繰り返し、地域に貢献するとともに、ひとりでも多くの若者を育てる場所を提供し続けたいと考えています。

 全国の野球ファンの皆様、ぜひ一度、四国観光も兼ねて、アイランドリーグの球場に足をお運びください。讃岐うどんにカツオのたたき、ミカンに阿波尾鶏……。四国にはおいしいものもたくさんあります。道後温泉に鳴門の渦潮、桂浜に金刀比羅宮など観光スポットも満載です。今年1年間、球場内外での応援、本当にありがとうございました。新しいシーズンも更なるご支援をよろしくお願いします。
 

鍵山誠(かぎやま・まこと)プロフィール>:株式会社IBLJ代表取締役社長
 1967年6月8日、大分県出身。徳島・池田高、九州産業大卒。インターネットカフェ「ファンキータイム」などを手がける株式会社S.R.D(徳島県三好市)代表取締役を経て、現在は生コン製造会社で経営多角化を進める株式会社セイア(徳島県三好市)代表取締役社長、株式会社AIRIS(東京都千代田区)代表取締役。10年10月にはコミックに特化した海外向けデジタルコンテンツ配信事業を行なうPANDA電子出版社を設立。アイランドリーグ関係では05年5月、徳島インディゴソックスGMに就任。同年9月からIBLJ専務取締役を経て、07年3月よりリーグを創設した石毛宏典氏の社長退任に伴って現職に。07年12月より四国・九州アイランドリーグCEOに就任。
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