(写真:これまでミドル級で戦い続けたゴロフキン<右>が体格ではやや上回っている Photo By Tom Hogan Photos/Golden Boy Promotions)

9月16日 ラスベガス T-モバイルアリーナ

WBA、WBC、IBF世界ミドル級タイトル戦

 

王者

ゲンナディ・ゴロフキン(カザフスタン/35歳/37戦全勝(33KO))

vs.

挑戦者

サウル・“カネロ”・アルバレス(メキシコ/27歳/49勝(34KO)1敗1分)

 

 2017年は多くのビッグファイトが実現したが、その中でも最大のカードがついに今週末に迫った。ミドル級の帝王ゴロフキンが、メキシコのアイドル、アルバレスの挑戦を受ける。紛れもなく現在最高のマッチアップであり、興行的な大成功も約束されている。

 

(写真:ゴロフキンの歴史的評価を決定づける一戦になる Photo By Tom Hogan Photos/Golden Boy Promotions)

 1年ほど前まではゴロフキンの方が圧倒的に格上という声が多かったが、ここに来てカネロがその差を急激に詰めているというのが一般的な意見。ファイトウィークに入り、ESPN.comが掲載した最終予想では実に14人のライター、関係者のうちの9人がカネロ勝利と予想していた。

 

 2015年11月にカネロがミゲール・コット(プエルトリコ)に勝ってWBC世界ミドル級王座を獲得以降、カネロ対ゴロフキン戦は次なるスーパーファイトとして待望されてきた。そして、カネロを抱えるゴールデンボーイ・プロモーションズ(GBP)がその実現を先延ばしにしてきたことに対する批判の声は多かった。しかし、振り返ってみれば、GBPの選択は正しかったのだろう。この試合は今ではほぼ50/50の読みづらい一戦となり、同時に米国内でも2年前より遥かに多くのスポーツファンの関心を惹きつけることになったのである。

 

 帝王の衰え

 

 決戦のゴングは間近に迫り、筆者が考えるポイントは端的に言って2つ。まずは一部で疑われている通り、ゴロフキンの力が全盛期と比べて落ちているのかどうかだ。

 

 今春まで世界戦16連続KOを含む23連続KOを続けていたカザフスタンの怪物だが、3月のダニー・ジェイコブス(アメリカ)戦の判定勝利で記録はストップ。この試合ではやや反応が鈍く、相手がスイッチして以降のサウスポースタンス、フットワークに対するアジャストメントの拙さも目立った。また、昨年9月のケル・ブルック(イギリス)戦でも、最終的には5回TKOで勝ったものの、その過程で不用意に被弾するシーンが目に付いた。この過去2戦を見て、“ゴロフキンがピークを過ぎた”と考える関係者は決して少なくない。

 

 ジェイコブス、ブルックはともにエリートレベルの実力派なのだから、多少の苦戦は当然という見方ももっともではある。その一方で、アスリートが30代の半ばから徐々に下降線を辿るのも自然の摂理。答えはどちらか、恐らくは今週末に見えてくるのだろう。

 

 挑戦者の不安

 

(写真:メキシコでは大人気のカネロ。会場はカネロファンで埋め尽くされそうだ Photo By Tom Hogan Photos/Golden Boy Promotions)

 もう1つはカネロの出来である。“ミドル級でのビッグファイトに臨む準備が本当にできているのか”という疑問符が消えない。2015年11月に155パウンドのキャッチウェイト(両者の申し合わせ体重を決める試合)でコットを下してWBC世界ミドル級のタイトルを奪ったものの、その後にスーパーウェルター級に逆戻り。今年5月、今度は一気に164.5パウンドまで上げ、再びキャッチウェイトでフリオ・セサール・チャベス・ジュニア(メキシコ)に判定勝ちを飾った。

 

 GBPにとって“金のなる木”なのだから当然ではあるが、カネロはこれまで極めて慎重に吟味されたマッチメークで守られてきた感がある。その過程で大金を稼ぐとともに、確実に成長してきたのだから、GBPの育て方は巧妙だった。 ただ、結局は一度も160パウンドのリミットで強豪相手に戦ったことはなく、“ミドル級への適応”という意味では依然として未知数。半ばぶっつけで筋金入りのミドル級統一王者ゴロフキンに挑むのだから、この一戦はやはりリスキーという他にない。

 

 このように両雄にそれぞれ不確定要素があるだけに、今戦の予想は簡単ではない。経験、パワーで勝るゴロフキンが全盛期に近い力を保っていれば、やはり王者が有利。2015年10月のデビッド・レミュー(カナダ)戦のようにジャブをうまく使えば、終盤のストップ、あるいは明白な判定勝ちが見えてくる。タイプ的にカネロはジェイコブスよりもレミューに近く、体格もゴロフキンが上回っているだけに、王者にとって本来はやり難いファイトではないはずだ。

 

 熱戦に期待

 

 ただ、過去2試合同様にゴロフキンにほころびが見られた場合、カネロにも付け入る隙が出てくる。メキシカンにとって鍵になる武器はボディブローだろう。

 

(写真:注目の一戦には大舞台が用意され、世界中から多くのメディアが集まった Photo By Tom Hogan Photos/Golden Boy Promotions)

  ゴロフキンは2015年5月のウィリー・モンロー・ジュニア(アメリカ)戦でボディを打たれ、明らかにダメージを受けたことがある。関係者によると、モンローはリング上でゴロフキンが苦しそうに呻いたのを聞いたという。

 パワー、ボディ打ちのうまさではモンローをはるかに上回るカネロが、早いラウンドに左ボディを良い角度で打ち込み、王者のスタミナ、戦闘能力を少なからず奪うことができれば……。そのときには、中盤以降、よりフレッシュで今が旬のメキシカンの勝機が一気に膨らんでくるはずだ。

 

 ともあれ、注目度の高い一戦で、両ファイターが持ち味を出し合った好ファイトを期待したい。両雄がともに勝機を残した形で終盤にもつれ込めば、T-モバイルアリーナは素晴らしい雰囲気になるはず。そして、この2人なら最後の最後までKO決着の可能性を感じさせてくれる。2017年のハイライトとなるような内容、ドラマティックな結末を、世界中のボクシングファンが待ち受けている。

 

杉浦大介(すぎうら だいすけ)プロフィール
東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、NFL、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボールマガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞』など多数の媒体に記事、コラムを寄稿している。著書に『MLBに挑んだ7人のサムライ』(サンクチュアリ出版)『日本人投手黄金時代 メジャーリーグにおける真の評価』(KKベストセラーズ)。最新刊に『イチローがいた幸せ』(悟空出版)。
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