(写真:「柔道は私の生きがいでした」と競技人生を振り返る田知本)

 10日、リオデジャネイロ五輪柔道女子70kg級金メダリストの田知本遥(ALSOK)は都内のALSOK本社で引退記者会見を開いた。4日に引退を発表した田知本は「ゆっくり考えることができ、悔いのない決断」と語った。「柔道一直線でやってきた。その道から次の道に行くにあたって、柔道という肩書きがなくても社会人として生きていけるように学業をしている」。今後は4月に入学した筑波大学大学院での学業に専念する意向を示している。

 

<この一年間、自分の身体と心に向き合う時間を頂きました。頭で考えるだけでなく、実際に稽古をはじめ、試合にも出場させて頂き、自分の気持ちを確かめ、答えを出すことができました>
 6日前に所属先のALSOKより配布されたコメントにある通り、リオデジャネイロ五輪後の1年で田知本は葛藤していた。6月には地元の富山県で開催された全日本実業団団体対抗大会に出場した。「次の気持ちがわいてこず、“もっとやりたい”という気持ちがないことを実感して、これはそういうことなのかなと思いました」。ついに彼女は畳から降りる決心をした。

 

(写真:毅然とした態度で受け答えをしていたが、涙が頬を伝う場面も)

 姉の愛もALSOK所属の柔道家だ。2歳下の妹に向けて、こうコメントを寄せた。
<一緒に柔道を始めて、小さい頃から理解し合える仲間であり、一番近くにいるライバルだった遥が先に引退することはまだ実感がわきません。最後に一緒に柔道を始めた土地で、団体戦を組めたことは、いい思い出になりました。どん底な時もあったと思うけど、そこから這い上がる姿、最後は自分の最大の目標を達成する姿は忘れられません。本当にお疲れ様でした>

 

 一方の妹は「私の全部の流れを見てきた人」という姉からのコメントに「すごくグッときました」と感慨深げだった。小学2年で始めた柔道。この道一直線で駆け抜けてきた。「ちょうど20年。すべてを懸けてひとつのものを求めて究めてきた日々。壁に立ち向かっていくことが好きだった。寂しい気持ちもありますが、20年間は自分にとって大切な思い出です」。彼女に後悔はない。「悔いのない決断」と言い切った。

 

(写真:会見には後輩の梅木真美がサプライズで花束を贈呈)

 田知本は筑波大大学院の人間総合科学研究科でスポーツ健康システムマネジメントを専攻している。「オリンピズムやオリンピック教育」を学んでいくつもりだという。柔道から離れ、学業に専念。「長期の目標はまだぼんやり」と語る田知本だが、柔道に対しては「携わっていきたい気持ちはある。指導者もやってみたい」と、いずれは関わりを持つ意向も表している。

 

 柔の道を突き進んできた田知本。これからは「私の生きがいでした」と口にする柔道を離れ、新たな道へと進む。「壁に当たることもあると思うが柔道で培ってきたことを生かしたい」。ロンドン五輪は準々決勝敗退し、「勝つことがすべてだと思っていて、何もかも失った」ところから這い上がり、4年後には表彰台の頂点に立った。幾多の壁を超えてきた経験は、彼女の誇りでもある。

 

(文・写真/杉浦泰介)