9月から2020東京オリンピック・パラリンピックの大会ボランティアおよび東京都の都市ボランティアの募集が始まります。

 

 2019年のラグビーW杯のボランティアはすでに受付中で、オリンピック・パラリンピックの競技開催自治体の地域におけるボランティアの募集も始まっています。またSTANDのある渋谷区では、この春から区独自のボランティア制度が始まりました。

 

 日本でボランティア団体が初めて組織されたのは1973年のことです。同年、社会福祉協議会のボランティアセンターが設立されました。現在、社会福祉協議会ではボランティア活動を以下のように位置づけています。
<近年、私たちの社会においても、身近な地域や学校、企業といった様々な場面で、福祉やまちづくり、スポーツ、文化、芸術や環境、国際協力などのボランティア活動に参加する人々が増加し、多様な広がりを見せています。「個人の自発的な意志」から始まるボランティア活動には、決まったかたちはありません。いつでも自分のできることから参加することができます>(全国社会福祉協議会公式サイトより)

 

 その後、95年に阪神淡路大震災が起きたとき、現地に駆けつけて様々な活動を行った人たちが数多くいました。のちに災害ボランティアという言葉が生まれ、この年はボランティア元年と呼ばれています。

 

 さらに07年に開催された東京マラソンを契機に、スポーツボランティアという言葉が広く社会に認知されるようになりました。以後、全国で開催されるスポーツイベントの成否にはスポーツボランティアの活動が大きく影響を与えると言われるようにもなったのです。

 

 東京オリンピック・パラリンピック組織委員会の大会ボランティア募集要項(案)には、こう書かれています。
「オリンピック・パラリンピックの成功は、まさに大会の顔となる大会ボランティアの皆さんの活躍にかかっています」

 

 期間中は大会ボランティアと東京都の都市ボランティアと合わせてのべ11万人が活躍することになります。こうした大きなスポーツ大会に、ボランティアの存在は欠かせないものとなっているのです。

 

 さて先日、立教大学で行われた「立教オリパラ応援団シンポジウム」のお手伝いをさせていただきました。土曜日の午後にも関わらず約200人の学生が集まり、ボランティアに対する関心の高さを感じました。

 

 学生さんたちからは「大きな大会だから、観るだけでなく関わることで得られるものが大きいと思う」「これまで少しだけ地域でボランティアをしたことがある。ありがとうと言ってもらえて、私でも役に立てることがあるんだと知った。その延長に2020もある。少しでも貢献したい」など、「何かを得たい」と「貢献したい」と、大きくわけるとふたつの声が聞かれました。

 

 ボランティア活動に携わる人は事前に勉強したり、必要な準備をしたりと時間を割き、さらに大会期間中は、たとえば東京オリンピック・パラリンピックなら1日8時間程度で約10日間と、多くの時間を費やすことになります。事前の様々な準備も含めれば、ボランティアのために使う時間はかなりの長さになります。それでも「ボランティアをしたい」という熱意あふれる人たちにスポーツイベントなど多くの大会は支えられるのです。

 

 そうした人たちは大会での活動の中で、確実に経験、知見、人的つながりという財産を獲得します。それは個人に積み上がったものですが、その人数を考えると膨大な財産が積み上がることになります。これは目に見えない大きなレガシーです。

 

 今、危惧しているのが、そうした個人の得たレガシーが大会終了後に消滅してしまうことです。

 

 ある自治体でのボランティア募集の会でお話をさせていただいたときのことです。私は「1998年の長野オリンピック・パラリンピックで活躍したボランティアの皆さんは、いなくなってしまいました」と言ってしまいました。講演が終わるや否や、1人の女性がやってきて、こうおっしゃいました。
「私は長野でボランティアをしました。それからずっと活動する機会がなかった。2020年が来て、ようやく経験が生かせます。だから長野のボランティアはいなくなっていないんです」

 

 私は申し訳ないことを言ってしまったと深く反省しました。と同時にこんな熱心な人がいるのに、もっともっと活躍していただける仕組みがあったらよかったのでは?とも感じたのです。

 

 02年、サッカーの日韓W杯が開催されました。会場となった地域で活動したボランティアの有志が大会終了後集まってボランティア団体を組織化したといいます。ただ専従の運営担当者が不在ということもあり、大会主催者に呼びかけたり、自分たちの活動をPRすることが難しく、そうこうするうちに1人抜け、2人抜けして、その団体はなくなってしまったそうです。

 

 ボランティア活動を通して得た貴重な財産をその後何らかのかたちで保護、活用しないのはあまりにもったいない。のべ11万人の人が大活躍する東京オリンピック・パラリンピックまで2年半を切りました。心配するのは今からでは早すぎる、ということは決してないでしょう。

 

 

 

伊藤数子(いとう・かずこ)プロフィール>

新潟県出身。パラスポーツサイト「挑戦者たち」編集長。NPO法人STAND代表理事。スポーツ庁スポーツ審議会委員。東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会顧問。STANDでは国や地域、年齢、性別、障がい、職業の区別なく、誰もが皆明るく豊かに暮らす社会を実現するための「ユニバーサルコミュニケーション事業」を行なっている。その一環としてパラスポーツ事業を展開。2010年3月よりパラスポーツサイト「挑戦者たち」を開設。また、全国各地でパラスポーツ体験会を開催。2015年には「ボランティアアカデミー」を開講した。著書には『ようこそ! 障害者スポーツへ~パラリンピックを目指すアスリートたち~』(廣済堂出版)がある。
 

◎バックナンバーはこちらから