第93回 パラスポーツ体験会を進化させる

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 2020東京パラリンピックに向けて、パラスポーツを多くの人に知ってもらおうと、パラスポーツ体験会が様々なかたちで行われています。主催は自治体、企業、各種団体など、STANDでも設立以来、定期的に行っています。


 パラアスリートの講演、パラアスリートとのふれあいや一緒に行うスポーツ体験、障がいのある人とない人がスポーツを通じて一緒に遊ぶ、などが主なコンテンツです。

 

 2013年、2020東京パラリンピックの開催が決定した当時はまだパラスポーツのことがあまり知られていませんでした。その頃の体験会は「競技が身近になった」「競技の面白さを知った」「パラリンピアンのすごさを知った」と大変有意義なものでした。

 

 あれから5年が経ち体験会はパラスポーツを知ってもらうという役割から、現在は少し変化してきました。体験会に参加した方からいただく感想の中に、「アイマスクをして歩いてみた。やはり見えないと不便」「車いすに乗ってバスケットは楽しいけど、階段は大変だ」という声があります。これでは障がいの不便さだけが印象に残ってしまいます。ここには大きな課題があると考えています。
「不便だけれど大変だけれど、こうしたらこういうことができる」という理解の先にある工夫の段階までを体験会の中で進めることが重要だと考えています。

 

 一方で、参加しないという人たちの理由も気になります。「その競技は知っているから」「もう見たことがあるから」「1回行ったことがあるから」。だから、「行かなくていい」。

 

 1回行ったことがあるから、もう見たことがあるから行かない? これが代表的な理由であるのはなぜでしょう。例えば野球やサッカー、バスケットボールに誘われた場合の断り方はこうです。「野球? 好きじゃない」「サッカー? 嫌い」「バスケ? 興味ない」。実にストレートです。好きか嫌いか、面白いか面白くないか。自然です。

 

 断る理由が、パラスポーツの場合はなぜこれと違うのでしょうか。特別のことだから、「1回は行っておかないといけないもの」になっているのでしょうか。「嫌い」という理由で断るのははばかられるのでしょうか。

 

 まだパラスポーツは特別なもので、自分とは関係のないものという意識に支配されていると感じます。「後学のために1回は」という意識で参加した人に、障がいを理解していただき、障がいの有無を超えたコミュニケーションを体験してもらう。さらには障がいのある人は別の世界にいるのではなく、共に社会にいることを感じ取ってもらう。そのための工夫をしなければなりません。ゆくゆくは「今度の体験会? 車いすバスケは私、好きじゃないから、行きません」と断ってもらえるように。

 

 

 

伊藤数子(いとう・かずこ)プロフィール>

新潟県出身。パラスポーツサイト「挑戦者たち」編集長。NPO法人STAND代表理事。スポーツ庁スポーツ審議会委員。東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会顧問。STANDでは国や地域、年齢、性別、障がい、職業の区別なく、誰もが皆明るく豊かに暮らす社会を実現するための「ユニバーサルコミュニケーション事業」を行なっている。その一環としてパラスポーツ事業を展開。2010年3月よりパラスポーツサイト「挑戦者たち」を開設。また、全国各地でパラスポーツ体験会を開催。2015年には「ボランティアアカデミー」を開講した。著書には『ようこそ! 障害者スポーツへ~パラリンピックを目指すアスリートたち~』(廣済堂出版)がある。
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