8日、アジア競技大会(韓国・仁川)の陸上競技の日本代表選考会を兼ねた第98回日本選手権最終日が福島市とうほう・みんなのスタジアムで行われ、16種目で優勝が決まった。男子100メートルは、桐生祥秀(東洋大)が昨年の覇者・山縣亮太(慶應義塾大)に競り勝ち、10秒22で初優勝を果たした。桐生は日本陸上競技連盟が定める派遣設定記録を既に突破しているため、アジア大会の代表に内定。その他の種目では、男子400メートルで金丸祐三(大塚製薬)が10連覇、同400メートルハードルで岸本鷹幸(富士通)が4連覇を達成した。女子100メートルでは、福島千里(北海道ハイテクAC)が前日の200メートルに続いて優勝。4年連続の2冠となった。
「優勝しか狙っていなかった」。視界が邪魔されるような雨の中だったが、桐生の目は、一点の曇りもなく日本一の称号だけをとらえていた。男子100メートル決勝を10秒22で制した。初出場の昨年は2位。見事にリベンジを果たした。

 この日行われた準決勝で桐生は、最後は流しての10秒21。全体トップで通過した。迎えた決勝は、最終種目。観客の視線を一挙に集めた。雨が降り、ピッチコンディションは良好とは言えない。「タイムより優勝。(タイムは)終わってから見ればいい」と欲はかかなかった。

 日本一を決める舞台にふさわしい決勝の顔ぶれ。国際大会の経験豊かな塚原直貴(富士通)、江里口匡史(大阪ガス)や、大瀬戸一馬(法政大)、九鬼巧(早稲田大)ら若手も揃っていた。

 そして6レーンを走る桐生の隣の5レーンには昨年度の王者・山縣がいた。これで3度目の直接対決。昨シーズンは2度戦って、1勝1敗。今シーズンは初対戦。4月の織田幹雄国際記念陸上では桐生が決勝を棄権したため、対決は実現せず。関東学生対校陸上選手権(関東インカレ)は、桐生の東洋大が1部で山縣の慶応大が2部とカテゴリーが分かれていたため、昨年の日本選手権以来の直接対決だった。

 スタートで先行したのは山縣だった。1年前の桐生は序盤で許したリードを、つめようと追いかけたが逆に硬くなり、逃げ切られた。でも今年は違う。「中盤から後半で抜ければいい」と、力まずに中盤から加速。50メートル地点では、山縣をとらえ先頭に立った。そのまま誰より早くレーンを駆け抜けた。

 2度目の日本選手権で、ついに初優勝。“最速の高校生”は、大学生になり、そして日本一の称号を獲得した。「ここから連覇したい。来年も再来年も勝負できるように」。100メートルは江里口匡史らが作った4連覇が最高。トラック種目では400メートルの金丸の10連覇、フィールド種目まで目を向ければ室伏広治(ミズノ)の20連覇もある。桐生はまずは、それらの記録に挑戦する権利を得たことになる。

 桐生は昨年、10秒01を出してから、一気に注目を集めた。世界トップレベルの大会も経験し、その差を痛感した。タイムもなかなか伸びなかった。今シーズンは織田記念で10秒10、関東インカレで10秒05と安定して好記録を出している。この日の10秒22も、条件が悪い中では評価できる数字だ。

「世界との差はいっぱいある」と桐生。この優勝によりアジア大会の代表に内定した。アジア大会では近年、成長著しい中国勢とのメダル争いになるだろう。2位に入った山縣も派遣標準記録Bをクリアしているため、代表入りは濃厚。国内にも切磋琢磨するライバルはいる。今後は来月の世界ジュニア選手権(米国・ユージーン)などに出場する予定だ。将来ぶつかるであろう同世代のスプリンター相手にし、どんな走りをできるか。18歳の真価が問われる。