ブラジルW杯のセキュリティーは予想していたより、厳重だった。筆者はバスの駐車場から約1キロ、歩いてスタジアムへ向かった。だんだん、スタジアムが大きくなってくる。あと約200メートルの距離までくると、銃を持った警備員が数人、立っていた。周囲は賑やかな雰囲気なのだが、警備員のいる空間だけ、世界が違うように感じられた。
(写真:セキュリティーチェックを待つ人々)

 スタジアムにつくと、キックオフ3時間前というのに、試合を待ちきれない人々でごった返していた。日本人サポーターはもちろん、コートジボワールのサポーター、そしてブラジル人もその多くを占めていたように映った。

 スタジアムの敷地内へ入るにはセキュリティーチェックゲートを通るのだが、それが長かった。細く蛇行したゲートまでの導線で大渋滞となったのだ。ゲートでは空港の保安検査のような機械で手荷物を検査し、さらに金属チェックを行う。筆者の並んだエリアにゲートは6つあったが、なぜか使用されたのは2つのみ。チェックに時間のかかる人も多く、ゲートの少なさが大渋滞の大きな要因になっていた。この状況に対し、並ぶ人々は大ブーイング。筆者は幸いにも早めに並んでいたため、キックオフ1時間前にスタジアム内に入れた。だが、列の長さからして、入場がキックオフの直前になった人は多かったに違いない。売店で飲食物を買ったり、試合前のイベントを楽しむのもスポーツ興行の醍醐味。安全とエンターテイメントのバランスの難しさが如実に表れていた。
(写真:手荷物を検査する機械)

 さて、スタジアム内へ入ると、面白い光景が広がっていた。侍、関取、忍者……様々な扮装に身を包んだ日本人サポーターが、外国人から写真攻めにあっていたのだ。他に、富士山やアニメキャラクターの着ぐるみ姿の人、日の丸ハチマキを巻いて道着を着込む現地の人もいた。また、対戦カードとは関係ないが、メキシコの民族衣装を着用した人も目にした。コスチュームで国の文化を表現する、国際大会ならではの交流風景だった。

 肝心の試合はというと、日本が前半16分にMF本田圭佑のゴールで先制。その後も比較的、優位に試合を進め、スタジアムの雰囲気も日本ペースだった。しかし、後半17分、ディディエ・ドログバの交代がアナウンスされると、スタジアムからは割れんばかりの大歓声が巻き起こった。この交代で流れがガラッと変わり、日本は立て続けに失点して逆転された。

 その後はコートジボワールがボールを回し、逃げ切り体制に入った。同国の選手がピッチに倒れ込む場面も少なくなく、時間を稼ぐ“エレファンツ”(コートジボワール代表)には観客席からブーイングが飛んだ。それでも流れは変わらず、コートジボワールが勝ち点3を獲得した。
(写真:空手の道着のような扮装をした2人組。右の男性は日の丸ハチマキも巻いていた)

「悔しすぎる負けですね」
 試合の感想を聞いた日本人サポーターは苦笑しながらこう語った。他のサポーターも一様に肩を落とし、覇気なくバス乗り場へと向かっていた印象を受けた。コートジボワール戦の悔しさを拭い去るのは簡単ではないだろう。しかし、ザックジャパンがギリシャ戦で勝利を掴むためには、サポーターの応援が必要不可欠。次戦までにいかに立ち直り、ナタルのエスタディオ・ダス・ドゥーナスで、ニッポンコールを轟かせられるか。選手のみならず、日本サポーターの真価もまた、問われている。

(文/写真・鈴木友多)