16日(日本時間)、FIFAワールドカップブラジル大会のグループF第1節で、アルゼンチン代表(FIFAランキング5位)とボスニア・ヘルツェゴビナ代表(同21位)が対戦した。前半3分、アルゼンチンはFKから相手のオウンゴールを誘い、先制に成功する。追いかけるかたちとなったボスニア・ヘルツェゴビナがチャンスを作りながらも得点を奪うことができない。すると後半の選手交代でリズムを取り戻したアルゼンチン。20分にはFWリオネル・メッシのゴールが生まれ、リードを広げた。アルゼンチンはボスニア・ヘルツェゴビナに終了間際に1点を返されたものの、2−1で逃げ切った。一方、初出場のボスニア・ヘルツェゴビナは、W杯初得点を奪ったが、勝ち点を手にすることはできなかった。

 メッシ、全得点に絡む活躍(リオデジャネイロ)
アルゼンチン 2−1 ボスニア・ヘルツェゴビナ
【得点】
[ア] オウンゴール(3分)、リオネル・メッシ(65分)
[イ] ベダド・イビシェビッチ(85分)

 大会の主役候補が、期待通りの活躍だ。
 優勝候補のアルゼンチンのエースであるメッシが、チームを勝利に導いた。リオデジャネイロのエスタジオ・ド・マラカナンに詰めかけたアルゼンチンサポーター。スタジアムをチームカラーの水色で包み、白星に酔いしれた。

 アルゼンチンは3−5−2のフォーメーションを敷き、メッシはセルヒオ・アグエロと2トップを組んだ。両サイドハーフが下がると5バックのようなかたちになり、アンカーに位置するMFハビエル・マスチェラーノは中盤の門番のように相手攻撃陣に立ち塞がる。6人で守り、前線のタレントの個人技を生かす狙いが見て取れた。

 前半3分、左サイドで得たFKから待望の先制点が生まれる。キッカーのメッシの左足から放たれた正確なクロスにMFマルコス・ロホが反応した。しかし、ヘディングはミートせず、ボールは後ろに逸れていく。軌道の変わったボールはDFセアド・コラシナツの左ヒザに当たり、ゴールへ吸い込まれるように転がっていった。GKアスミル・ベゴビッチも飛びついたが、ボールに触れることはできなかった。アルゼンチンが幸運なかたちでリードを奪う。

 ここでアルゼンチンが勢いに乗るかと思われたが、ここからペースを掴んだのはボスニア・ヘルツェゴビナの方だった。サイドをワイドに使った攻撃でチャンスメイク。13分には、中央にいたMFズビェズダン・ミシモビッチのミドルレンジの縦パスを送る。右サイドから斜めに走り出したMFイゼト・ハイロビッチがペナルティエリア内でボールを受ける。ワントラップし、シュートモーションに入るが、ここはアルゼンチンの守護神セルヒオ・ロメロが飛び出して事なきを得た。

 40分には、MFミラレム・ピャニッチが右CKからニアに上げたボールをMFセナド・ルリッチが頭で合わせる。叩きつけたシュートは枠に飛んでいったが、ここでもロメロが鋭い反応を見せてセービング。ボスニア・ヘルツェゴビナはなかなかゴールを割ることができない。

 結局、1−0のまま前半を終えた。アルゼンチンは前線で孤立する場面が見られ、攻撃の型を作れなかった。エースのメッシも中盤に下がってボールをもらおうとすると、ボランチのムハメド・ベシッチが張り付き、仕事をさせてもらえなかった。

 するとアルゼンチンのアレハンドロ・サベーラ監督は後半開始と同時に動く。FWゴンサロ・イグアインとMFフェルナンド・ガゴを投入し、攻撃陣をテコ入れ、フォーメーションも4−3−3に変えた。その采配はズバリと的中し、リズムの悪かった前半とは見違えるように変わった。さばき役として気の利いたパスを出せるガゴと、高い位置でターゲットになれるイグアインが入り、攻撃に厚みが増した。

 10分には、メッシがガゴとのパス交換からペナルティエリア手前までボールを持ちこむ。相手を引きつけたところで、ペナルティエリア内左へパス。ボールを受けたアグエロがシュートを放つが、ボールは枠を外れた。16分には、高い位置で相手のボールを奪ったメッシが、中央をドリブル突破。今度はペナルティエリア内右にいたアグエロへパスを送る。アグエロはシュート性のクロスで、イグアインを狙うがGKに阻まれる。いずれも得点にはならなかったが、メッシの負担が減り、前半よりもイキイキとし始めていたのは明らかだった。

 19分にはゴールほぼ正面25メートルの好位置でFKを得る。キッカーはメッシ。しかし、シュートは枠を大きく外れ、会場からブーイングが聞こえてきた。優勝候補のアルゼンチン、そのエースナンバー10を背負う男へ寄せられる期待は非常に大きい。所属するスペインのFCバルセロナでは数々のタイトルを勝ち取ってきたメッシ。それだけに代表で求められるのは、86年メキシコ大会以来の栄冠奪取である。本人もそれは重々承知しているはずだ。

 サポーターからのブーイングに発奮したのか、メッシのギアが上がる。20分、センターサークル付近でボールを持つと、ドリブルで前線へ運ぶ。一度、前にいるイグアインにボールを渡し、リターンパスを受けると、再びドリブルで相手DFをかわし、ペナルティエリア内手前まで攻め入った。ここまでくれば、メッシには射程圏。左足を振り抜くと、ボールはゴール左のポストを叩き、逆サイドのネットを揺らした。雄叫びを上げながら、喜びを爆発させるメッシ。“見たか! 主役はオレだ!”と言わんばかりのアピールだった。

 エースの活躍により、2点のリードを奪ったアルゼンチン。40分に途中出場のFWベダド・イビシェビッチにゴールを決められ、ボスニア・ヘルツェゴビナに1点を返されたが、その後は危なげなく試合を締めた。前半は低調だったが、サベーラ監督の采配もハマり、エースが2大会ぶりの得点で勢いづけた。完璧ではないが、上々のスタートと言えよう。

【アルゼンチン】
GK
セルヒオ・ロメロ
DF
フェデリコ・フェルナンデス
ウーゴ・カンパニャーロ
→フェルナンド・ガゴ(46分)
エセキエル・ガライ
MF
ハビエル・マスチェラーノ
パブロ・サバレタ
マルコス・ロホ
マキシ・ロドリゲス
→ゴンサロ・イグアイン(46分)
アンヘル・ディ・マリア
FW
リオネル・メッシ
セルヒオ・アグエロ
→ルーカス・ビリア(87分)

【ボスニア・ヘルツェゴビナ】
GK
アスミル・ベゴビッチ
DF
メンスル・ムイジャ
→ベダド・イビシェビッチ(69分)
セアド・コラシナツ
エルミン・ビチャクチッチ
エミル・スパヒッチ
MF
ムハメド・ベシッチ
ミラレム・ピャニッチ
イゼト・ハイロビッチ
→エディン・ビシュチャ(71分)
セナド・ルリッチ
ズビェズダン・ミシモビッチ
→ハリス・メジュニャニン(73分)
FW
エディン・ジェコ

(文/杉浦泰介)