26日、レッドブル・エアレースジャパン実行員会は2015年5月に千葉・幕張海浜公園で「RED BULL AIR RACE CHIBA 2015」(レッドブル・エアレース 千葉 2015)を開催することを発表した。同大会はレッドブル・エアレース・ワールドチャンピオンシップ2015シーズンの第2戦(全8戦)にあたる。5月16日に予選を行い、同17日が決勝となる。開催発表会見にはレッドブル・エアレース社のエリック・ウルフCEO、熊谷俊人・千葉市長、レッドブル・エアレース・パイロットの室屋義秀らが出席し、日本開催の意義、競技の魅力などを語った。
(写真:日本初開催に向けて意気込む左から熊谷市長、エリックCEO、室屋)
 レッドブル・エアレースは国際航空連盟公認の3次元でタイムを競う世界最速のモータースポーツ・シリーズだ。最高時速は370キロに達し、最大重力加速度は10Gに及ぶ。パイロットは過酷な状況下で操縦技術、判断力、体力、精神力の限りを尽くす。機体は高速で機動性に優れたレース専用飛行機を使用。空気で高さ25メートルにまでふくらませたパイロン(エアゲート)で構成する低空の空中コースを、ペナルティを回避しながら周回する。海外では大きな人気を誇り、2014年は延べ60万人がレース会場で観戦。80カ国でテレビ放送され、延べ4億2000万人が視聴した。

 レッドブル・エアレースはひとりの男の夢から始まった。15年前、エアロバティックパイロットのピーター・ ベネゼイ(ハンガリー)が“全く新しいエアレースを行いたい”という夢を抱いていた。このベネゼイを支援し、夢を実現させたのがオーストリアのエナジードリンクメーカー、レッドブルだ。
「レッドブルの哲学はアスリートの成績向上を支援するのみでなく、アスリートの夢を叶えることにある。レッドブルのシンクタンクチームは、ベネゼイ氏とともに全く新しいエアレースを開発しよう動き出した。エアレースは観客の前で競技が繰り広げられるように、またコースを示すパイロンも飛行機が当たっても機体およびパイロットに傷を負わすことのない新しいパイロンの開発を進めた。そして開発に尽力すること3年、2003年に初のレッドブルエアレースをオーストリアで行った。2年後の05年には国際航空連盟の協力のもと、世界選手権競技にまで発展した」
 エリックCEOはレッドブル・エアレース誕生の経緯をこう説明した。

 現在まで58回のレースを行ってきたが、事故とは無縁。これはエリックCEOが「我々は最も大事にしている」と胸を張る安全対策の賜物だ。レース開催地の航空団体と協力して開催前に安全対策を施し、国際航空連盟とともにレースを監視。パイロットにはトレーニングなどで豊富な飛行経験を積ませ、ルール順守を徹底させている。また2014年シーズンはすべての機体に共通のエンジンとプロペラの使用を義務づけ、改造を禁止させた。医療スタッフも充実しており、パイロットの肉体面、精神面における健康管理を行う。観客、パイロット、スタッフ、運営というすべての分野で安全を最優先しているからこそ、“安全かつ迫力あるレース”が実現できている。

 幕張海浜公園が開催地となった理由は、真っすぐな海岸線が長く続き、レース観戦に非常に適した環境だからだという。また、幕張メッセやQVCマリンフィールドなどの大型施設で日々、大規模なイベントが行われており、幕張海浜公園でも大型の音楽イベントや花火大会などの開催実績が豊富なことも決め手となったようだ。
「千葉市は日本で初めての本格的なコンベンションである幕張メッセをはじめ、ホテル、大型のショッピングセンターを含めて、世界各国から多くの方をお迎えできる国際コンベンション都市でもある。こうした世界的なレースを開催するにあたって、様々なかたちで(訪れる人々に)おもてなしを提供できると思っている」
 熊谷市長は開催に向けてこう意気込んだ。来年の大会が成功すれば、他の都市・地域でのエアレース開催の機運も高まってくるだろう。その意味で、熊谷市長を筆頭に実行員会の手腕が問われることになる。
(写真:レース会場となる幕張海浜公園/Red Bull Japan PR Full House)

 誰よりも日本開催決定を喜んでいたのが室屋だ。
「長年にわたって、(レッドブル・エアレースの)開催に向けていろんなことをお手伝いしてきたが、なかなか実現しなかった。ある意味、長年の夢が叶った。まだこれから準備は続くが、今日は大きなハードルを超えた瞬間。日本でスカイスポーツを知ってもらう大きなステップになると思うので嬉しい」
 室屋はエアショーパイロットとして日本国内で活動する中、08年にレッドブル・エアレースのスーパーライセンスを取得した。09年にアジア人初のレッドブル・エアレース・パイロットとしてシリーズに参加。今季は第2戦(クロアチア・ロヴィニ)で初の表彰台となる3位入賞を果たした。“ホーム”である千葉大会での上位進出に期待がかかる。

 レース中の最大重力加速度10Gは、スペースシャトルの打ち上げ(3G〜4G)、F1(4G)をはるかに凌駕する。その状況を室屋は「6Gの世界にいくと、心臓(の力)で血を上げられないので、脳から血が抜け、だんだんと目が見えなくなって失神していく。その先の10Gは人間が耐えられない世界」と説明した。室屋らパイロットには、航空技術はもちろん、優れた身体能力も求められるのだ。
(写真:パイロンの間を抜ける室屋の機体/Joerg Mitter)

 全体的にタイムの差は僅差であり、ひとつのミスで順位が大きく入れ替わる。室屋は「見る方も、飛んでいる我々も手に汗握るレース」と競技の魅力を語り、次のようにレースへの来場を呼び掛けた。
「レッドブル・エアレースはエキサイティングなレース。テレビ、ビデオ、インターネットで見た方は多いと思うが、生で見るレースの迫力は桁が違う。私もエアショーで飛んでいる経験があるにも関わらず、エアレースを初めて見た時は衝撃を受けた。それほど迫力があり、エキサイティングする本当に面白いレースなので、ぜひ生で見ていただきたい」

 果たして、日本初開催のレースを制するのは誰になるのか。来年5月、極限の中でパイロットたちが世界最速の争いを繰り広げる。

レッドブル・エアレース・ワールドチャンピオンシップ2015予定

【第1戦】アブダビ(アラブ首長国連邦) 2月13日(金)、14日(土)
【第2戦】千葉市 5月16日(土)、17日(日)※順延日18日(月)
【第3戦】ソチ(ロシア) 5月30日(土)、31日(日) ※日程調整中
【第4戦】ブタペスト(ハンガリー)7月4日(土)、5日(日)
【第5戦】アスコット(イギリス)8月15日(土)、16日(日)
【第6戦】スピルバーグ(オーストリア)9月5日(土)、6日(日)
【第7戦】フォートワース・テキサス(米国)9月26日(土)、27日(日)
【第8戦】ラスベガス(米国)10月17日(土)、18日(日)

(文・写真/鈴木友多)