17日に開催される「第54回NHK杯体操」は、10月の世界選手権(英国・グラスゴー)の日本代表選考会を兼ねている。男子は既に世界選手権個人総合5連覇中の内村航平(コナミスポーツクラブ)が内定。今大会では2人の代表が追加される。4月の全日本選手権での得点の半分が持ち点として繰り越され、全日本選手権優勝の内村を除くと、同2位・田中佑典(コナミスポーツクラブ)、同3位・加藤凌平(順天堂大)が選考争いでリード。男女ともに東京・代々木第一体育館で競技が行われる。
 毎年、熾烈を極める男子の日本代表選考会。NHK杯は総合力での2枠を巡る争いになる。内村を除く上位2名のオールラウンダーが勝ち取れる切符である。選考会の前半戦となった全日本選手権では田中が2位、加藤が3位に入った。NHK杯に持ち越した田中の持ち点は90.275点、加藤は90.000点。4位以下は早坂尚人(順天堂大)が89.000点、野々村笙吾(順天堂大)が88.675点、山室光史(コナミスポーツクラブ)が88.500点と続く。

 現在、代表権争いの先頭に立つ田中。世界選手権には2011年の東京大会から3度出場している。去年はNHK杯で4位。全日本種目別選手権での代表入りを果たした。12年のロンドン五輪代表でもあり、近年の世界大会日本代表の常連だ。4位以下には1点以上の差をつけているが、全日本選手権から構成を落とすつもりはなく「守りにいかず、攻めていきたい」と語った。

「経験上、守りに入ると自分の演技ができない。点を気にしてしまうとよくないので、下を気にするなら上を見たい」。記者会見で田中のコメントを受け、順位上は内村しかいないことを報道陣に指摘されると、「(内村は)高い壁。自分の中で(順位を)キープする以上のものを出したい」と言い直した。大言壮語するタイプではない。だが、攻めの姿勢は周囲からも見て取れた。所属チームが同じ内村は「昨年からすごく自信を持っている。試合でいい演技をするための練習をして、自信がついて今の位置にいる」と高く評価する。

 鉄棒と平行棒を得意とし、スペシャリストとして色濃かった印象のある田中だが、総合力は確実に上がっている。昨年の世界選手権では個人総合で銅メダルを獲得し、個人でのメダルを初めて手にした。2年連続での世界選手権代表を掴むことは、来年のリオデジャネイロ五輪の選考にも弾みがつく。3年前に初出場したロンドン五輪は「ただ出ただけだった」という。「リオでは金を目指したい」。田中3きょうだいの末っ子は、目線を表彰台の頂点へと向けている。

 田中を0.275点差で追いかける加藤も、攻めの姿勢を貫く。田中同様に全日本選手権から構成を変えない予定。跳馬では去年回避したE難度のロペスに挑む。「こだわりというより、コケることもなくなってきて安定してきた」と徐々に自分のモノにできている手応えがある。「身体の動きは全日本よりいい」とNHK杯に合わせてきたという加藤は、既に世界選手権での構成をも頭に入れている。「今年こそは団体金。そして個人総合で表彰台に上りたい」と闘志を燃やす。

 ロンドン五輪以降、内村に次ぐ日本の2番手に付けていた観のあった加藤だが、昨年の世界選手権では個人総合での決勝を逃している。「去年は種目別でメダルを獲りたいという思いが強すぎて、個人総合の予選で失敗した」。それでも平行棒ではきっちりと銅メダルを手にした。「今年は個人総合と種目別、両方でメダルを狙っていきたい」と両獲りを目指す。ミスが少なく安定感は国内でも指折りの存在。次期エース候補が更なる進化を見せるのか。

「順当にいけば、このままいくのかな」と内村が予想するように、大きなミスがなければ田中と加藤がグラスゴー行きの切符を手にする可能性は高い。しかし、2人が攻めの姿勢を貫く以上は、ミスがないとは言えない。1点以上の差をつけられている早坂、野々村、山村が逆転代表入りを狙うには、リスクを負ってでも高得点を狙いにいく必要がある。そうなれば会場はヒートアップ必至。白熱の代表権争いは目が離せない展開となるだろう。

 世界王者の内村を擁しながら、団体では10年以上も頂点に立てていない体操NIPPON。王国・中国の牙城は分厚いが、昨年の世界選手権では0.1点差まで迫った。確実に背中はとらえ始めている。NHK杯で入ってくるオールラウンダーは、当然、内村とともに軸となる選手だ。その自覚と実力を兼ね備えた男が、グラスゴーで戦う資格を得る――。

(文・写真/杉浦泰介)