1月26日、日本代表は岡田武史監督が就任して初の国際親善試合でチリと戦い、スコアレスで引き分けました。日本の方がチャンスを多くつくっていたし、勝てない相手ではなかった。それだけに残念な結果でしたね。


 日本は少ないタッチ数でボールを回していましたが、パスミスが多かったです。確かに、チリは生きのいい若手選手が多く、非常にアプローチが早かった。それでも、攻撃をもう少し組み立てることができなかったものか。もちろん初戦ということもありますが、岡田監督の志向するサッカーをよく飲み込めていない印象を受けました。

 岡田監督はFW高原を前線の軸に考えているようですが、私は1人の選手にこだわる必要はないと思っています。それよりは様々なタイプのFWを使いこなして欲しい。今回のチリ戦では前半で泥臭いタイプのFW巻を起用し、後半には裏へ飛び出していくFW大久保を使いました。このように、相手に的を絞られないように、起用にアクセントをつけてほしい。

 守備面は合格点を与えていいと思っています。センターバックで起用されたDF阿部は早くて的確なアプローチで相手の攻撃の芽を摘んでいた。全体的にも、スルーパスで裏を狙うなどタテに早い攻撃を仕掛ける相手によく対応していたと思います。相手の攻撃を0点に抑えたことは評価したいですね。

 あとは中盤のプレスです。日本は高い位置でボールを奪えた時にチャンスができる。しかし、チリ戦ではライン裏を狙われることが多く、全体が間延びしていました。だから、プレスをかけにくいし、中盤からの攻撃参加が少なくなっていた。それに、中盤がディフェンスラインをカバーすることも難しくなってしまう。もう少しコンパクトにすることを心がけなくてはいけませんね。

 チリ戦では、ボールを奪われた際に追いかけることは全員が意識していた。しかし、どこでボールを奪うかについては、意思統一ができているとは言いがたい。そのあたりをボスニア・ヘルツェゴビナ戦(1月30日)で修正して、2月6日のタイ戦に臨む必要があるでしょうね。

 また、この試合では19歳のDF内田が初先発を果たしました。国際試合は彼にとって大きな経験になっただろうし、他の若手選手にも「自分も頑張れば、チャンスを与えられる」という勇気を与えたと思います。

 彼の持ち味であるオーバーラップは数えるほどしか見られませんでしたが、それはDF中澤や阿部との連係に不安があったからでしょうね。自分が飛び出して空いたスペースを突かれる恐れがあったはずですよ。

 しかし、周囲の選手としては、前に出る時は思い切って出て行ってくれた方が守りやすいもの。内田も次に起用された際は、失敗を恐れずに攻撃参加してほしい。それを中澤、阿部、MF鈴木など経験のある周囲の選手がサポートしてあげればいいんですからね。

<高原、浦和移籍でJ活性化へ>
 
 さて、高原の浦和レッズ移籍についても触れておきましょう。国内のクラブに所属すれば、試合や合宿など代表に帯同する時間が多くなる。長距離の移動の負担も少なくなる。W杯予選も2月に始まります。南アフリカW杯を見据えた選択でしたね。

 高原は、日韓大会はエコノミークラス症候群で出場できず、ドイツ大会は1ゴールも奪えませんでした。彼にとって、過去のW杯2大会は満足のいくものではなかったと思います。その雪辱を晴らしたい、自分の集大成を南アW杯で見せたいという気持ちは大きいのでしょう。

 私は、彼に海外での経験をJリーグに還元してほしいと思っています。ドイツで培った得点力を日本のファンに見せて欲しい。リーダーシップを発揮してクラブを引っ張って欲しい。それに、高原ほどの実績のあるFWと対峙できれば、日本人ディフェンダーにとって素晴らしい経験になるでしょう。彼のように海外から帰ってくる選手がJリーグを盛り上げる手助けになればいいですね。

● 大野俊三(おおの・しゅんぞう)<PROFILE>
 元プロサッカー選手。1965年3月29日生まれ、千葉県船橋市出身。1983年に市立習志野高校を卒業後、住友金属工業に入社。1992年鹿島アントラーズ設立とともにプロ契約を結び、屈強のディフェンダーとして初期のアントラーズ黄金時代を支えた。京都パープルサンガに移籍したのち96年末に現役引退。その後の2年間を同クラブの指導スタッフ、普及スタッフとして過ごす。現在、鹿島ハイツスポーツプラザ(http://business2.plala.or.jp/kheights/)の総支配人としてソフト、ハード両面でのスポーツ拠点作りに励む傍ら、サッカー教室やTV解説等で多忙な日々を過ごしている。93年Jリーグベストイレブン、元日本代表。

*ZAGUEIRO(ザゲイロ)…ポルトガル語でディフェンダーの意。このコラムでは現役時代、センターバックとして最終ラインに強固な壁を作った大野氏が独自の視点でサッカー界の森羅万象について語ります。


◎バックナンバーはこちらから