名古屋グランパスが好調をキープしている。

 

 開幕から8試合を終えて首位ヴィッセル神戸と勝ち点2差の2位。長谷川健太監督は就任2年目に強いというデータを誇る(2006年清水エスパルスでは前年15位からジャンプアップしての4位、2014年ガンバ大阪ではJ2から昇格してJ1、ナビスコカップ【現YBCルヴァンカップ】、天皇杯の3冠を達成、2019年のFC東京では優勝まであと一息の2位)。浦和レッズから加入したエースストライカー、キャスパー・ユンカーがここまで4ゴールを挙げる活躍を見せるなどチームは得点力不足の課題を解消しつつある。失点の少ない堅調な戦い方を見ても大崩れすることはなかなか考えにくく、最後まで優勝争いに絡んでくることは十分に考えられる。

 

 長谷川サッカーの代名詞「ファストブレイク」をチームとして発揮できているのも、34歳のベテラン永井謙佑の働きを抜きにしては語れない。

 

 4月15日、等々力競技場での川崎フロンターレとの一戦。リーグ戦では2020年8月に1-0で勝利して以降は1分け4敗と苦しい戦いを強いられている相手に対して“先制パンチ”が効いた。

 

 前半9分だった。自陣の左サイドで相手のパスをカットした米本拓司が倒れながら前線のスペースへ。すぐさまトップスピードに入った永井が追いつくと、逆サイドでフリーになっていたユンカーにワンタッチでパスを送ってゴールを呼び込んだ。前半のアディショナルタイムにはマテウス・カストロが直接FKを豪快に決めて2-0に。後半に1点を返されたが、リードを守って勝ち点3を手にした。

 

 永井は攻撃のみならず、守備ではユンカーの前まで出ていってセンターバックに“鬼プレス”を発動。プレスバックもさぼることはない。相棒の守備における負担を減らすかのように、前線を懸命に駆け回った。後半途中で「お役御免」となったが、30代半ばになってもボロボロになるまで己の力を使い果たす姿勢は変わらない。

 

 2019年、FC東京時代に聞いた永井の言葉を思い出した。

 

「そもそも(体力を)90分持たせようとは考えていないんですよ。交代するメンバーがいますから、行けるところまで行くというスタンス。俺が守備をちょっとでもサボったら、中が空いてきてやられてしまう可能性がある。だからコントロールしないし、疲れたかどうかはもう監督の判断になるので」

 

 献身という言葉がピタリとはまる。

 

 フロンターレのビルドアップに対して絶えずニラミを利かし、ストレスを与え続けるとともに、ユンカーがシュートを打てるシチュエーションをつくることを心掛ける。後半8分にはゴールに至らなかったものの、左サイドからクロスを送ってユンカーのボレーシュートを引き出している。

 

 相棒役を輝かせるのがうまい。

 

 ベルギーから名古屋に戻った際には川又堅碁を、FC東京に移籍してからはディエゴ・オリヴェイラを。相手の特長を把握しつつ周囲と連係を高めることによってそれは自分のプレーにも活きてくる。永井はここまで3得点。今季初ゴールとなったホーム開幕戦の京都サンガ戦(2月25日)ではユンカーからのパスを受けてゴールに押し込んでいる。相棒を活かそうとするから相棒もまた活かそうとしてくれる。

 

 長谷川監督にはFC東京のころから絶大な信頼を受けている。昨年グランパスに復帰したのも指揮官の存在が大きいと言える。

 

 元日本代表ストライカーの長谷川からのアドバイスでずっと胸に刻んでいる言葉がある。

 

「とにかく仕掛けろ。フォワードなんだから、外してもいいからとにかくシュートを打て、と。試合のなかで1回決めればいいんだ」

 

 エゴを出してシュートを打つことも絶対に忘れない。だからこそ相手にとって嫌な存在であり続けている。

 

 この日の取材エリアでは勝利の満足感と疲労感が入り混じった表情をこちらに向けた。

 

「自分のようなベテランが一番、走らないといけないですから」

 

 好調グランパスの陰に、永井謙佑あり。全力疾走のベテランがチームを勢いづかせている。


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