第179回 様々な理由で生まれる「体験格差」
「体験格差」という言葉をよく耳にします。経済的な理由で習い事や旅行の機会を持てない、スポーツや芸術活動の経験を得られないことを指すことが多いようです。子どもの学校外で様々な活動に差が生じ、将来にも影響があることを示唆しています。
パラスポーツの現場に目を移すと、体育館、道具などの環境や指導者不足などから、体験格差は地域によっても存在することも、指摘されています。
そんな中、STANDでは、できるだけパラスポーツに触れる機会を創出できれればという思いもあり、全国で体験会を開催しているのです。
できるだけ多くの人に知っていただき、来場していただくために、事前のお知らせもします。地元のメディアに当日の取材依頼もします。
6年ほど前、コロナ以前、そして東京オリンピック・パラリンピック前の体験会でのできごとです。
開催地に住む知人が地元のテレビ局の方をご紹介してくれました。事前にお会いし、お話を聞いていただくと、「大変大切なこと。これから、いろんなところで、こういう機会ができるよう、お役に立ちたい。当日のニュースだけでなく、特集というか、何か企画を考えてみます」と、本当にうれしいお返事をいただきました。
その後、何度かのやり取りを経て、開催日の数日前、会社で企画が通らなかったこと、力不足で申し訳ないこと、せめて当日のニュースのための取材には必ず伺うこと、を告げられました。
この方のお気持ちも、奔走してくださったことも、大変うれしく、当日会場でお目にかかれるのを楽しみにしていました。
さて、その日が来ました。この方はだいぶ早く、会場に現れました。お一人でした。
ニュース取材の許可がもらえなかったと、とても残念そうにお詫びくださいました。「とんでもない。こんなにご理解いただき、応援してくださったことを、本当にありがたく思っています」とお伝えしました。
さて、ここで取材がNGになった理由です。
「映像を誰がチェックするんだ(障害のある部分を映像にしてもいいのか?)」
「原稿はどうやってチェックするんだ(障害者? 障害を持った人? 障害のある方? 呼称一つとっても、どうやって、誰に確認するんだ)」
「障害のある人が映っていて、何かあったらどうするんだ」
さらには、「それより、〇〇公園の花が満開だから、そちらに取材に行け」と。
彼は肩を落として、事情をお話くださいました。「週末の夕方のニュースは、平和で明るいのがいいと。残念ながら、現実なんです」
当時はさもありなん、と思えることでした。
さて、私が今またなぜこの話を蒸し返したかというと、最近、ある地域でそっくりな出来事があったと聞いたからです。その時、「体験格差」という言葉が頭に浮かびました。パラスポーツに関する体験格差です。格差は、環境や指導者だけでなく、こうした「伝えることへの抵抗」「できれば触れたくない、などの心のバリア」に厳然として存在しているのです。
伝える機会が少ないと、広めるチャンスも減ります。それはすなわち、さらなる格差へとつながるのです。
先日このことを聞き、古い話を思い出し、知っていただくためのあらゆる手段はまだまだ足りていないのだ、と焦燥感が溢れてきたのです。
<伊藤数子(いとう・かずこ)プロフィール>
新潟県出身。パラスポーツサイト「挑戦者たち」編集長。NPO法人STAND代表理事。STANDでは国や地域、年齢、性別、障がい、職業の区別なく、誰もが皆明るく豊かに暮らす社会を実現するための「ユニバーサルコミュニケーション事業」を行なっている。その一環としてパラスポーツ事業を展開。2010年3月よりパラスポーツサイト「挑戦者たち」を開設。また、全国各地でパラスポーツ体験会を開催。2015年には「ボランティアアカデミー」を開講した。2024年、リーフラス株式会社社外取締役に就任。著書には『ようこそ! 障害者スポーツへ~パラリンピックを目指すアスリートたち~』(廣済堂出版)がある。