川田悠平(法政大学体育会弓道部/高知県南国市出身)第2回「目覚め始めた潜在能力」
「オレ、高校で弓道やるつもりだから、川田もやれば?」川田悠平を弓道に引き合わせたのは、中学校時代の友人の何気ない提案だった。川田は高知県立岡豊(おこう)高校に、その友人は別の高校に進むことが決まっていた。川田は中学校まで特にスポーツをやってきたわけではなかったが、高校進学を機に運動部への入部を考えていた。しかし、その時は、「弓道か……」と少し考える程度で、入部を決意するには至らなかった。それでも入学後、まずは弓道部へ見学に行くことにした。
奇しくも岡豊高校弓道部は男女ともに全国大会常連の強豪だった。だが、“何気なく”見学に行った川田はそんなことを知る由もなかった。
「対応してくれた先輩が優しくて、入部してもいいかなと。ただ、今思えば入学してすぐの頃は、どこの部も勧誘モード。部員が欲しいから、最初は優しいんですよ(笑)」
飛んで火に入る夏の虫――川田は“まんま”と弓道部に入部した。
「ぽっちゃりした元気そうな子が入ってきたなぁ」
岡豊高弓道部監督の石元仙人は、入部してきた川田の第一印象をこう明かした。弓道では太めの選手がそこまで多くないだけに、石元は印象的だったのだろう。
弓道は本物の弓を引くまでには基礎練習を積まなければならない。「足踏み」「胴造り」「弓構え」「打ち起こし」「引き分け」「会」「離れ」「残心」からなる射法八節をまず覚える必要があるのだ。簡単にそれぞれの動作を紹介する。
(1)足踏み:射位(弓を射る立ち位置)で的に向かって両足を踏み開いて間隔をとる。
(2)胴造り:開いた両足を支点に上体を安定させる。
(3)弓構え:矢を弓につがえて準備する。
(4)打ち起こし:弓矢を持った両拳を上に持ち上げる。
(5)引き分け:打ち起こした状態から両拳を左右に開きながら弓矢を引き下ろす。
(6)会:引き分けが完成した状態。この時点で的に狙いをつける。
(7)離れ:矢を放つ。
(8)残心(残身):矢を放った後の両手が伸び、心身ともに一息を置く状態。
以上が弓を引く時のルーティンだ。始めて間もない頃は矢は使わず、ゴムの弓を使って射法八節を繰り返し練習する。岡豊高校では約2週間でこの基本動作を身に付けるという。(写真:残心(残身)の状態をとる川田)
初めて半月が経った頃、川田はようやく本物の弓を使った練習を始めた。この時に渡された弓は特別なものだった。初めて引くにも関わらず、彼には引力が13キロの弓が与えられたのだ。
「周りの同級生が大体8キロくらいでしたからね。体格のこともあったと思います(笑)」
果たして、石元はどのような理由で川田に、初心者には異例の重さの弓を渡したのか。
「どっしりとした体でしたので、その重さでも引けるだろうと思いました。また、彼は腕が長くなかったのも理由のひとつです。仮に腕の長さが1メートルの人と80センチの人が同じ弓を引いた場合、長い人のほうが弓を引いて会に至る距離も時間も延びてきつくなります。逆に短い人は、会まで楽に持っていくことができるんです」
つまり、川田はいきなり13キロの弓を引けるポテンシャルを持っていたのだ。
忘れられない初心者時代の衝撃
素引き(矢を持たず、弓を引いて離さずに戻すこと)練習の最初は「もう腕がプルプルして、きつかったです」と振り返った川田だが、体が慣れてくるにつれてそのきつさは小さくなった。
5月に入り、練習は的に向かって弓を射る前段階の“巻き藁”(巻き藁に矢を射る練習)に移行した。その時、川田はある感覚を覚えた。
「弦を引くのがきつくて、今までは素引きで離さずに戻していたので引き方もわからずに離したんです。実際に矢を放つと、弓を持っている左手に大きな衝撃がありました。“お、すごい!”と。その衝撃は今でも覚えています」
そして、6月頃には実際に的に向かって矢を放つようになった。やはり最初は当たらなかったが、2週間くらいで徐々に的中するようになっていった。そんな川田を見て、石元はある特徴に気が付いた。
「体がしなやかなんです。他の男子は、どうしても力で引こうとするため、もうカチコチ(苦笑)。それが、川田はスッと離れまで持っていけていました。これはなかなか教えてもできるものではないですよ」
無駄な力をかけずに弓を引ける――これも川田に備わっていた素質だった。
入部してから3か月後の07年7月、川田にとって初めての大会がやってきた。全国大会への出場権などはかかっていない県大会だった。その大会の印象を聞くと、彼は「とにかく当たらなかったくらいしか覚えていませんね」と苦笑した。さらに言えば、川田は高校1年の時の試合は、ほとんど印象に残っていないという。
「ただがむしゃらに、何も考えずに弓を引いていたように思います」
そんな“初心者”弓士が変わったのは高校2年になってからだ。
「1年間やってきたおかげで、かなり弓に慣れた。どういうふうに引けば当たるのかが、頭に入ってきたんです」
こう変化を実感していた川田はその後、インターハイ、全国高等学校弓道選抜大会、国民体育大会に出場するなど、大きく飛躍していくことになる。
(第3回につづく)
<川田悠平(かわた・ゆうへい)プロフィール>1991年、8月10日、高知県生まれ。岡豊高校進学を機に弓道を始める。高校時代はインターハイに2度、高校選抜に1度出場。09年の新潟国体では遠的で8位、近的では4位入賞を果たした。法大入学後は1年時の後期から団体戦のメンバーに選出。2年時には出場した選抜で同校の2連覇に貢献。昨年は団体戦のレギュラーとして主要大会に出場。選抜3連覇、4年ぶり9度目の全日本制覇を成し遂げた。同年12月1日、法大体育会弓道部の第56代主将に就任。今年は史上初の主要大会5冠を目指す。

(鈴木友多)