西川喜久(西川精機製作所代表取締役)<前編>「誰もが楽しめるアーチェリー」

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 東京都江戸川区に拠点を置く株式会社西川精機製作所は、金属加工などを手掛ける町工場である。ものづくりで培ってきた技術力を駆使し、車いすユーザー向けのボウリング投球補助機や、障がいの有無や年齢を問わず誰もが簡単に楽しめるアーチェリーセット「ENJOY ARCHERY」(エンジョイアーチェリー)を開発している。同社の代表取締役・西川喜久氏に話を訊いた。

 

二宮清純: 先ほどエンジョイアーチェリーを体験させていただきましたが、簡単に準備ができ、的を当てる爽快感を得られる。矢尻(矢の先端)は柔らかいラバー製になっているので安全です。競技を始める障壁が低くなりますね。

西川喜久: 最初は二宮さんたちと同じように2~3メートルの距離からスタートし、この距離で的の中心に当たる確率が高くなってきたら、少しずつ距離を長く取るようにします。最大距離は約5メートル。それ以上の距離でアーチェリーをしたい場合は、本格的なアーチェリーにチャレンジしてもらいます。

 

伊藤数子: 矢尻にマジックテープを付け、的に当たるとそれがマーカーとなって残ります。赤と青に色分けされ、得点を可視化しやすい点もすごくいいですね。

西川: ありがとうございます。アーチェリーを普及する際の課題は、矢が刺さる危険性を伴うことでした。しかし、他のスポーツにしても、ボールを人に向かって打ったり、蹴ったりするのは危険な行為です。だからアーチェリーも刺さらなければ、他のスポーツと同じように普及できるんじゃないか、と。それで刺さらない矢をつくりました。

 

伊藤: それは素晴らしい。いろんな人が安心して、体験会に参加できますね。

西川: 的も安全ネットにS字フックでひっかけるだけです。高さを簡単に調整できますから、子どもや車いす利用者も楽しめる仕様になっています。ご家族で一緒に体を動かしながら楽しいひと時をつくっていただきたいという思いを込めています。

 

伊藤: エンジョイアーチェリーを始めたきっかけは?

西川: 東京都障害者スポーツ協会主催のマッチング会で、東京都身体障害者アーチェリー協会の方とのご縁をいただきました。「障がいの有無に関わらず楽しめて、かつ本物のスポーツの入り口になるアイテムをつくれませんか」ということで、エンジョイアーチェリーを開発しました。エンジョイと言っても、弓の中心となるハンドルの規格はアーチェリーと同じ。リム、サイト(標準器)、レスト(矢置き)などを装着すれば、30~50メートルを射抜くために使うことができる。本物に触れてもらいたいという思いで、大会で使用できるような弓具にしています。

 

 

「つくれない」はない

 

伊藤: エンジョイアーチェリーを開発してからの反応はいかがでしょうか?

西川: ありがたいことに、江戸川区内の特別支援学校で体育の授業で使用してもらったり、区内のパラスポーツイベントにも呼んでいただけるようになりました。エンジョイアーチェリーを通じ、スポーツを始めるきっかけづくりになればいい。加えて、我々の本業である日本のものづくりを知ってもらえればうれしいです。

 

二宮: アーチェリーとパラアーチェリーとの区別はないわけですね。

西川: おっしゃる通りです。パラアーチェリーはパラスポーツの草分け(※)です。傷病兵の方が始められたのが起源。垣根をつくらず楽しむことができるスポーツだと思っています。我々が開発した「エンジョイアーチェリー」は、主にジュニア用の弓具を使用します。初心者向けにリム(板バネ)も柔らかくつくられています。

 

伊藤: 西川さんは2011年、江戸川区で開催されたスポーツの初心者講習会に参加した際にアーチェリーと出会ったそうですね。

西川: そうなんです。そこでアーチェリーにハマり、自分で弓具をつくりました。実は当時、日本で流通していたアーチェリー弓具も外国産が主流でした。幸い、各部品の製造する会社は、同じ地元に集まっていた。「つくれない」ということはない。つくろうと思えば、仲間がまわりにいました。

 

二宮: それは心強い。大田区の町工場が中心となった下町ボブスレーのアーチェリー版ということでしょうか。

西川: 下町ボブスレー製作の中心となったマテリアル代表取締役の細貝淳一さんは、ものづくり仲間です。私がアーチェリーを製作した時、彼には「オレもつくろうと思っていたんだよ」と言われました。

 

二宮: 皆さん、横の繋がりがあるんですね。

西川: チャレンジスピリッツを持った仲間が多い。その方々と話をすることで、さらに次のステージを狙う気分を醸成できる点があるのかもしれないですね。これからも皆で力を合わせ、町工場の技術力を発信していきたいです。

 

※1948年7月29日、「パラリンピックの父」と呼ばれるルードウィッヒ・グットマン卿が、ロンドンオリンピックに合わせてストーク・マンデビル病院内で車いす患者(英国退役軍人)によるアーチェリー大会を開催したことがパラリンピックの原点だと言われている。

 

(後編につづく)

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<西川喜久(にしかわ・よしひさ)プロフィール>
株式会社西川精機製作所代表取締役。1965年、東京都墨田区出身。1988年に日本大学農獣医学部農業工学科(現生物資源科学部)を卒業。先代社長である父の病気から、そのまま同社に入社する。父の死去により1999年に代表取締役就任。祖業の金属加工を活かし、日本製弓具の復活プロジェクト「プロジェクト桜」や、人々の垣根を作らない「ボウリング投球機」、電気自動車プロジェクト「Blue Jay」、アグリテックプロジェクト「限界集落×SDGs」など、様々な事業に取り組む。2025年には障がいの有無や年齢を問わず誰もが簡単に楽しめるアーチェリーセット「ENJOY ARCHERY」を開発。以降、普及活動に力を入れている。

>>西川精機製作所

>>Blue Jayプロジェクトクラウドファンディング

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NPO法人STAND代表の伊藤数子さんと二宮清純が探る新たなスポーツの地平線にご期待ください。

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