上位進出が期待されたブラジルW杯、日本代表はグループリーグで敗退してしまいました。
あと一歩のところでゴールを割れないシーンを見て「釜本邦茂がいればなぁ……」とつぶやいたオールドファンは少なくなかったのではないでしょうか。
言うまでもなく釜本さんは、日本サッカー界が生み出した最強にして最高のストライカーです。68年メキシコ五輪得点王(7点)、日本リーグ得点王7回、通算202得点、国際Aマッチ75得点(76試合)――。
メキシコ五輪後は、ドイツやフランスなど海外のクラブから引く手あまただったそうです。世界が釜本さんの実力を認めたのです。
その釜本さんの実力を見抜いたのが“日本サッカーの父”と呼ばれるデットマール・クラマーさんでした。
1964年の東京五輪を控えた日本代表を強化するために来日したクラマーさんは情熱あふれる指導で、代表のレベルアップに貢献しました。
クラマーイズムを骨の髄まで叩き込まれた釜本さんは、現役時代、口グセのようにこう語っていました。
「僕は登録はアマチュアやけど、精神的にはプロフェッショナルな気持ちで戦っている。本物のプロフェッショナルは技術的にも精神的にもアマチュアの範とされる。それが本当の意味でのエリートやと思うんです」
試合を決める上で、今も昔もストライカーの重要性に変わりはありません。
ある日のこと、クラマーさんは、釜本さんにこう訊ねました。
「ものすごく巧いが、1試合に1点取るかどうかわからない選手と、下手くそだが、必ず1試合に1点取る選手がいる。オマエなら、どちらを選ぶ?」
釜本さんは迷わず「1試合に1点取る選手」と答えました。
「そのとおりだ!」
クラマーさんは大喜びし、こう続けたそうです。
「ストライカーはハンターだ。狙った獲物は一発で仕留めろ!」
39歳で引退するまで、釜本さんは一度もこの言葉を忘れたことがなかったそうです。
<この原稿は『週刊教育資料』2014年7月28日号に掲載されたものです>
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