今夏の甲子園で最も印象に残ったピッチャーは松山聖陵(愛媛)のアドゥワ誠である。初戦で敗れたものの187球を投げ切り、評価を高めた。
ナイジェリア人の父とダイエーでプレーした日本人バレーボール選手の母との間に生まれた。196センチの長身ながら、動きが素早く、フィールディングが巧いのにはびっくりした。
しかし、何よりも感心したのは、内角をズバズバ突く、度胸のよさと、そのボールの精度である。ピンチの場面では変化球を封印し、これでもかと言わんばかりに胸元にストレートを投げ込んでいた。
カープOBの安仁屋宗八の口ぐせは「内角を攻めろ!」である。アドゥワのピッチングを見たら、「カープはこういうピッチャーをとらないと」とお墨付きを与えてくれるのではないか。
もっとも一方では、「よく“内角を攻めろ”というコーチがおるけど、ぶつけてイップスになったピッチャーがどれだけおるか……」と冷めた口調で語るOBもいる。内角攻めは、口で言うほど簡単ではないのである。
だがアドゥワに関してはイップスになる心配はなさそうだ。死球を与えた後も、ひるまずに内角を突いていた。コースも、ほとんど狙ったところにいっていた。
下半身の弱さや、スピード不足(自己最速145キロ)を指摘する声もある。しかし、それはプロに入ってから鍛えればいい話。スピードも180球を越えてからも140キロ台を維持していた。さらに言えば、ランナーを置くとギアを一段上げるところなどはプロ向きである。ドラフトの中位あたりでおさえておきたいピッチャーのように映った。
(このコーナーは二宮清純が第1、3週木曜、書籍編集者・上田哲之さんは第2週木曜を担当します)
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