お粗末、というより、小狡い、という印象を受けた。

 

 大会の1年延期に伴う追加費用について、「日本が負担することに安倍首相が合意した」と発表したIOCが、日本側の抗議を受けるとあっさりと当該部分を削除した。

 

 思えばほんの数十日前まで、かたくなに予定通りの開催にこだわっていたのがIOCと日本側だった。彼らに市民やアスリートの声が聞こえていなかったとは思えない。それでも両者が強行にこだわったのは、先に折れた側が責任をとることになる、つまりは追加負担をかぶることになる、との読みがあったはず。

 

 ちなみに、より追い詰められていたのは日本側ではなくIOCではなかったか、というのは個人的な印象だが、結果的に、延期の決定にあたり、どちらが主導したかという点はうまくボカされていた。

 

 延期が決定した以上、追加費用は間違いなく発生する。これはもう、動かしようがない。IOCだけ、あるいは日本側だけがかぶるというのも、常識的にみて考えにくい。一方で、できることであれば相手側により多く押しつけたいとの思いは、当然、両者の側にある。

 

 そこでIOCが出した観測気球が、今回の「日本負担に首相合意」ではなかったか。日本側の反発が想定内であれば、何事もなかったかのように既成事実化し、想定を超える反発があれば、それよりも少し譲歩した案での決着を図る。五分五分での折半より少しでも多く日本側に負担を押しつけられれば、彼らからすれば上首尾だろう。

 

 もっとも、わたしがより小狡いと感じたのは、「なぜ2年後に延期しなかったのか」という問いに対するIOCの答えである。

 

「日本のパートナーと首相が来夏以降の延期には対応できないと明言した」

 

 負担割合の観測気球はあっさりと引っ込めた一方で、世界的に批判が高まりつつある開催時期に関しては、その責任をすべて日本に押しつけた。開催時期にこだわったという点においては、IOCも同じ穴のムジナのはず。全世界から非難の矛先を向けられつつあった米NBCは胸をなで下ろす思いだろう。自己防衛と忖度の見事な両立。いやあ、ご立派。

 

 皮肉ではなく、心から「立派」と思えたのはJリーグの提案だった。コロナ検査場としてJに所属する56クラブの施設を提供する考えがあるという。

 

 やれ韓国式が素晴らしいだの、ドイツのやり方を見習えだの、今回のコロナ禍が始まってからというもの、日本の対策は基本的にほとんどがどこかの国の模倣か、あるいはアンチテーゼだった。

 

 だが、今季に限っての降格を停止したことに始まり、Jが下した決断は世界に先駆けたものが実に多い。わたしの知る限り、自分たちのクラブハウスを医療のために提供するというアイデアは、まだ世界のどこからも聞こえてきていない。降格の停止同様、世界に伝播していくことが予想される。

 

 先頭に立つ村井チェアマンの決断力は称賛に価する。独自のアイデアを次々と出してくるスタッフにも感服する。世界中のクラブが存亡の機に直面する中、Jリーグは世界最高の対応を見せている。心底、そのことを幸せに思う。

 

<この原稿は20年4月23日付「スポーツニッポン」に掲載されています>


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