助走の姿勢はアップライトに近く、走るというより、はねる、といったイメージだ。健常者なら走り幅跳びよりも走り高跳びの選手に似ている。

 

 踏切ではブレードの反発力をいかし、高く跳び上がる。1本目の記録はいきなり世界新の6メートル16。大舞台で自己記録を7センチも更新した。

 

 28日に行われた女子走り幅跳び(義足T64)の金メダリストは、この種目パラリンピック初エントリーのフルール・ヨング(オランダ)。両脚義足の25歳だった。

 

 その日の夜、男子走り幅跳び(義足T63)でも両脚義足の選手が優勝した。7メートル17を跳んだヌタンド・マラング(南アフリカ)。これまでの世界記録を70センチも更新した。

 

 走り幅跳びはヒザ上切断とヒザ下切断でクラス分けされるが、両脚か片脚かの区分けはない。

 

 一見、片脚よりも両脚義足の選手の方が不利のように見える。しかし、勝ったのは後者だ。ということはブレードの影響が大きいのだろうか。

 

 ここは専門家に聞くしかない。多くのパラアスリートを支える旧知の義肢装具士・臼井二美男によると「板バネが進化しているのは事実だが、両脚切断の選手なら誰でも跳べるというわけではない」。確かに、その通りだ。他にも両脚切断の選手はいたが、先の2人に迫ることはできなかった。

 

 ここで臼井はレジェンドの名をあげた。両脚切断クラスの100メートル、200メートル、400メートルの世界記録保持者オスカー・ピストリウス(南アフリカ)。「ひとりスーパースターが出ると、“自分もやれるのでは”という気になってくる。こうした心理的背景が大きい。マラングはピストリウスと同じ南アフリカの選手。両脚切断でも記録を伸ばせるトレーニングやコーチングの技術が確立されているのかもしれない」

 

 心配な点もある。プレードがさらに進化し、両脚義足の選手が今以上に記録を伸ばし始めると、本来なら障害の軽い片脚義足の選手から「不公平」という不満の声が出てくるのではないか。「両脚義足の選手は、股関節に大きな負担がかかるというハンデがある一方で、疲れにくいというアドバンテージもある。乳酸がたまりませんから」と臼井。将来的に片脚義足と両脚義足の選手はクラスを別にすべきなのか、それとも今まで通り「共生」すべきなのか。臼井は「道具の進歩でパラ選手の可能性が広がるのはいいことだが、今はその過渡期」と語った。悩ましい問題である。

 

<この原稿は21年9月1日付『スポーツニッポン』に掲載されたものです>


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