2012-13シーズン限りでトヨタ自動車アンテロープスを退団し、背番号7のユニフォームを脱いだ。現役を引退した小池真理子(現TOKYO DIME)は3年間住んだ愛知県名古屋市に別れを告げ、東京に向かった。彼女にとっては、バスケットボールとの決別でもあった。

 

 小池はエンターテインメント業界に興味を持っており、上京後、知人の伝手で歌やダンス、演技を教えるスクールの東京校で受付事務に就いた。受付事務といっても業務は多岐にわたる。スクール生がアーティストのライブツアーに出演する際には引率も行った。

「ある意味、昔なりたかった学校の先生を疑似体験しているような感覚でした」

 

 スクールの大宮校がオープンする際には東京校から転勤し、立ち上げにも関わったという。その意味で、仕事は充実していた。だが心の奥底で、どこか物足りなさを覚えているのも事実だった。

「頑張っている子どもたちを見て、“人生楽しそうだな”と感じました。目標を持って頑張る姿に、自分の過去を重ねていたのかもしれません」

 

 小池はトヨタを辞めてから3年はバスケボールに触れることすらなかったが、ダイエットがてらにバスケを始める。東京での仕事を紹介してくれた知人からコミュニティに誘われ、参加したのだ。

「久々にやったバスケで全然、走れないし、ジャンプは跳べないし、シュートも入らない。でも、やっぱり楽しかった。月に1、2回しかないバスケの集まりでしたが、そのスケジュールに合わせて仕事の休みを申請するようになりました」

 

“絶縁”状態だったとはいえ、バスケが嫌いで辞めたわけではない。「遊びのバスケはすごく楽しかった」。徐々に感覚を取り戻していくと、ある日、一緒にバスケをする友人から「3人制バスケ(3x3)の女子リーグが始まるんだけど、やってみない?」と声を掛けられたのだ。ちょうど3x3.EXE PREMIREの女子リーグがスタートする時期だった。

 

 30歳からのリスタート

 

 3x3は5人制バスケと似て非なるどころか、ほぼ異なる競技と言ってもいい。ボールの重さが違えば、ルールも違う。試合時間は5人制が40分(1クォーター10分)に対し、3x3は10分(21点が入ると試合終了)。得点は5人制のフリースロー1本1点、スリーポイントライン内のシュートは2点、スリーポイントライン外のシュートは3点に対し、3x3はスリーポイントが2点に変わり、その他のシュートは全て1点だ。

 

 5人制とは別物でも、小池はその魅力に惹かれていった。

「3x3に限ることではありませんが、戦術、シュートの精度、フィジカル、メンタルなど、総合的に日々レベルアップ、アップデートしていく必要がある競技で、知れば知るほど奥が深いと感じます。本当にタフでないとやっていけないですが、チームメイトたちと日々高め合える環境やコミュニティがあることは有難いことですし、平凡な日常を特別なものにしてくれていると思います」

 

 30歳からのリスタートは、SHIBUYA SANKAKでのプレーから始まった。背番号は71。TOKYO DIMEに所属する現在も背負う番号について聞くと、こう答えが返ってきた。

「トヨタ時代の背番号は7。“7番をもう一度極める”という意味で選びました」

 トヨタの3年間、そして鹿屋体育大時代も背負った7番の隣に、1を加えた大きな背番号で新しい門出を決めた。

 

 19シーズンからTOKYO DIMEに移籍した。共同オーナーの1人である現役Bリーガーの岡田優介(アルティーリ千葉)からオファーを受けて決めた。実は3x3挑戦1年目にもTOKYO DIMEでプレーする可能性があった。なぜなら小池に東京での仕事を紹介し、バスケの集まりに呼んだ先述の知人とは、お笑いコンビ『麒麟』の田村裕だったからだ。バスケ好き芸人としても知られる彼は、岡田とお笑い芸人・大西ライオンと共にTOKYO DIMEのオーナーを務めている。

 

 ある意味“1年遅れ”の加入となったが、身長178cmの高さを生かし、内外で精度の高いシュート力を持つ小池はすぐに主力となった。20年から2年連続で日本選手権準優勝。21シーズンは3x3.EXE PREMIREのMVPにも輝いた。今季からはキャプテンを任されるなど、コート内外でチームを牽引することを期待されている。「チームとして、ひとつでも多くの試合に勝ってタイトルを獲る」と意気込む。

「今シーズンはキャプテンという大役を授かり、自分がこれまでのバスケ人生で得た経験を若手たちや次の世代に伝えていくことも、今シーズンの自分の課題であり、挑戦だと思っています」

 

恩返し”の第2章

 

 34歳の小池は今季からチーム最年長となった。若手を引き上げるだけが仕事ではない。自らの成長の余白も、まだあると考えている。小池曰く「永遠の課題」であるドリブル力の向上を目指す。

「昨年、チームの先輩2人がバスケスクールに通ったら、激変したんです。その姿を見て、“年齢は関係ないんだ”と教えられました」

 

 彼女が言う「激変した先輩」の1人がTOKYO DIME女子のアドバイザリーコーチである森本由樹だ。

「私は“年齢は言い訳にならない”と思う。真理子の成長がDIMEのカギを握ると考えています。彼女がもう一皮剥けたら、チームはもっと良くなるはずです」

 

 現在はIT企業で平日働きながら、終業後にトレーニングを積む。チーム練習は基本週2回。バスケ漬けの日々でないことも程良い距離感を生んでいるのかもしれない。

「仕事だけだったらメリハリを感じられないかもしれないし、練習ばかりやっているとバスケが嫌になっているかもしれません。どちらも“楽しい”と思える絶妙なラインに今はいられているんだと感じます」

 

 18年にスタートしたバスケ人生第2章は、「晩年」を迎えてきているという。

「“どうバスケ人生を締めくくるか”という意味でも、これまで自分のバスケ人生に関わってくれた全ての方に感謝の気持ちを忘れずプレーしたい。プレーヤーとして頑張れるところまで精一杯頑張りたいです」

 恩返しの相手は“人”だけではない。生まれ育った土地や、人生を切り拓いてきたバスケという競技そのものにも感謝の思いがある。

 

「“もう一生やらない”と負の感情で引退したバスケでしたが、3x3に出会えたことで、また心から楽しむことができるバスケの道が拓けました。自分を育ててくれた大好きな故郷・愛媛にも、バスケを通して何か恩返しがしたいですね。“バスケに出会って人生が変わった”“たまたま見た3x3が面白くてハマッた”など、バスケや3x3が好きになるきっかけを、今度は自分が与えられるような存在になれたらいいなと思っています」

 歩んできた道に後悔はない。#71は大言壮語せず、背中で魅せるのである。

 

(おわり)

>>第1回はこちら

>>第2回はこちら

>>第3回はこちら

>>第4回はこちら


小池真理子(こいけ・まりこ)プロフィール>

1987年7月23日、愛媛県西宇和郡伊方町生まれ。小学4年でミニバスケを始める。中学ではバレーボール部に所属。八幡浜高校でバスケットボール部に入った。国民体育大会の愛媛県代表に選ばれ、ベスト8進出に貢献する。鹿屋体育大進学後、1年時から出場機会に恵まれる。4年時にはユニバーシアード日本代表にも選出された。卒業後はトヨタ自動車アンテロープスに入団し、Wリーグで3シーズンプレーした。現役引退後、約5年のブランクを経て3x3に転向。2018年、SHIBUYA SANKAKに加入し、翌年よりTOKYO DIMEに移籍。21年には3x3.EXE PREMIER2021でMVPにも輝いた。今シーズンよりキャプテンを務める。中からも外からもシュートを決められる万能型スコアラー。ポジションはPF、C。身長178cm。背番号71。

 

☆プレゼント☆

 小池真理子選手の直筆サイン色紙をプレゼント致します。ご希望の方はこちらより、本文の最初に「小池真理子選手のサイン希望」と明記の上、郵便番号、住所、氏名、年齢、連絡先(電話番号)、この記事や当サイトへの感想などがあれば、お書き添えの上、送信してください。応募者多数の場合は抽選とし、当選発表は発送をもってかえさせていただきます。締め切りは2022年6月30日(木)迄です。たくさんのご応募お待ちしております。

 

(文・プロフィール写真/杉浦泰介、プレー写真/ⓒTOKYO DIME)

 


◎バックナンバーはこちらから