郡紘平(専修大学サッカー部/徳島県徳島市出身)第1回「専大の若きクラッキ」
関東大学サッカーリーグ1部の専修大学サッカー部には、徳島県徳島市から上京して来た“クラッキ”がいる。今春、同大学に入学したばかりのMF郡絋平だ。1年生ながら、Aチームに身を置き、リーグ戦デビューもすでに果たしている。専修大学サッカー部の未来を担う逸材である。
<2017年6月の原稿を再掲載しています>
クラッキとは、ポルトガル語で名手の意味だ。攻撃の中心を担い、違いを生み出せるプレーヤーが、そう呼ばれることが多い。サッカープレーヤーにとって“クラッキ”と形容されることは最大の賛辞であると言ってもいいだろう。
郡は攻撃的なポジションならどこでもこなし、ボランチもできる。主戦場はトップ下だ。トップ下はサッカーにおける花形のポジション。中村俊輔、小野伸二、香川真司らテクニックに長けたクラッキたちが最も好むポジションである。
郡は抜群のテクニックを武器に相手を抜き去るドリブル、意外性のあるパス、正確無比なシュートを兼ね備える。彼は自らの武器について、こう語る。
「前線の選手なので、ゴール前の崩しのアイディア。自分が点を取ったりアシストしたり、点に絡めるプレーが得意です」
このタイプの選手は戦況を無視して自分がやりたいプレーに走りがちだ。だが、郡はそうではない。専修大学サッカー部の源平貴久監督からも高い評価を得ている。
「状況判断がしっかりしている。少しでも前を向けるチャンスがあれば、前を向こうと努力をします。今、なかなかいない感じのタイプですね。欠点が見当たらないくらい非常に良い選手だと思います。自分で工夫してうまくやっている。チームの雑務を率先してやらないとか、そういうところはありますが(笑)」
教科書はイニエスタ
プレーヤーとして、これ以上ないほどの評価を指揮官からされている旨を本人に伝えると、「ホンマですか?(笑)」と照れくさそうにはにかむ。サッカープレーヤーとして力んだ表情ばかりでなく、等身大の19歳の笑顔をインタビューでも覗かせる。
「パス、ドリブル、シュートの全てを高いクオリティーでやることを目標にしているので、嬉しいです」
彼が参考にしているのは、イニエスタ。リーガエスパニョーラの強豪・バルセロナFCに所属する中盤の選手だ。卓越したキープ力、広い視野を持ち、高いキック精度を誇るワールドクラスのクラッキである。「消極的なプレーはせず、ミスを恐れないのに、プレー成功率が高い選手。ボールの運び方、パスの出しどころは、僕が試合をしている時のイメージしているプレーに似ているなぁと思います」
雑務を率先してやらないことを言及していたと、冗談交じりで水を向けると彼は「あははは」と笑った。その後に、「なるほど」とつぶやき、こう続けた。
「寮生活が初めてでして……。1年生で仕事を分担しているんですが、僕が気づくより早く、同期のみんなが気が付き、先に仕事を片付けてくれています」
徳島県徳島市で育ち、中学も高校も実家から通った郡にとって、寮生活は初めてだ。集団での生活にまだ少し戸惑っているようにも見えた。彼なりに懸命に雑務をこなそうとしているらしい。同期に甘えるだけでなく、“自分も率先して何かをこなしたい”という意志を私は彼の目から感じ取った。
環境が一気に変わり、精神的にも疲れが出てくる頃だろう。郡は今、厳しい競争に身を置いている。1年生から公式戦に絡む専大のクラッキは、如何にして幼少期を過ごしてきたのだろうか。
(第2回につづく)
1998年5月3日、徳島県徳島市出身。小学校1年から本格的にサッカーを始める。助任サッカークラブ-徳島ヴォルティスジュニアユース-徳島市立高校-専修大学。攻撃的なポジションならどこでもこなせるアタッカー。シュート、ドリブル、パスの攻撃の三拍子を高いレベルで兼ね備える専大サッカー部期待の1年生。身長167センチ、体重56キロ。
(文・写真/大木雄貴)