(写真:6連覇を喜ぶ東海大。井上康生氏、羽賀龍之介氏などOBも祝福に駆け付けた)

 全日本学生柔道優勝大会最終日が26日、東京・日本武道館で行われた。男子は東海大学(東京)が国士舘大学(東京)との決勝を制し、6大会連続(2020年大会は中止)26度目の優勝を果たした。

 

 常勝軍団が劇的勝利でV6を達成した。死闘と呼べるほど大熱戦となった代表戦で殊勲の白星を挙げたのは主将の村尾三四郎(4年)だった。

 

 2回戦からスタートした前年王者は、順当に勝ち上がり、決勝戦へとコマを進めた。迎えた決勝は長年のライバル国士舘大が相手だ。試合前時点での優勝回数は東海大25回、国士舘大6回と大きく上回るものの、全日本学生優勝大会決勝に限れば2勝3敗とわずかに負け越している。また今年度の国士舘大は4月の全日本選手権を制した斉藤立(3年)を擁し、主将の熊坂光貴(4年)をはじめ豊富な戦力を揃える。戦前の予想では6連覇がかかる東海大を差しおいて国士舘大を本命に推す声もあったほどだ。

 

(写真:先鋒の役割を全うし、スタンドの応援団に向かってガッツポーズする天野)

 男子は12人の登録メンバーの中から7人が戦う。先鋒、次鋒、五将、中堅、三将、副将、大将それぞれに階級の縛りはない。東海大の先鋒は本来83kg級の天野開斗(1年)、国士舘大は90kg級の藤永龍太郎(3年)。天野は「先方の役割はチームに勢いをつけること」と畳に上がった。2分、引き込み技の帯取り返しで技ありを奪う。そのままポイントをリードしたまま、4分の制限時間を迎えた。

 

 優勢勝ちで先勝した東海大は次鋒に鈴木直登(3年)を起用した。対する国士舘大は斉藤が登場。鈴木によれば「試合をしたことのない選手もいたので、むしろ良かった」という。今年3月の東京都選手権で対戦しており、ゴールデンスコアで敗れたものの、相手の特徴を掴んでいた。圧力を受けて押し込まれる場面もあったが「組み手を徹底した」とペースを握らせなかった。東海大の上水研一朗が「殊勲は鈴木直登」と称える大きな引き分けだった。

 

 ここまでは東海大の流れに見えたが、国士舘大に粘られると徐々に旗向きが変わっていく。五将の菅原光輝(2年)が岡田陸(2年)と引き分け。続く中堅の村尾も中西一生(4年)相手にポイントを奪えなかった。三将、副将も引き分け、1対0とリードしたまま7人目の大将戦を迎えた。東海大は安部光太(4年)、国士舘大は髙橋翼(3年)が畳に上がる。

 

(写真:大将戦の土壇場で追いつき、沸き上がる国士舘大ベンチ)

 雄叫びを上げて気合十分の体重132kgの髙橋に対し、90kg級の安部は粘ったものの、残り10秒を切ったところで投げをくらった。技あり――。髙橋の優勢勝ちとなり、勝負の行方は、前日の女子5人制に続き、代表戦までもつれることとなった。女子5人制は抽選で出場者を決めるのに対し、男子は代表者が決まっている。

 

 村尾vs.斉藤という組み合わせが明らかになると会場がひと際大きく沸いた。パリオリンピックの代表候補と期待される2人による頂上決戦。まるでドラマのような展開だった。村尾が自らの頬を叩いて気合を入れ(写真左)、斉藤はのっしのっしと戦いの舞台に向かう(写真右)。泣いても笑ってもここで大学日本一が決まるのだ。

 

「追われる身は厳しい。勢いは完全に国士舘。私としては三四郎に賭ける思いと、諦めの境地、両方ありました」と試合後に明かしたのは東海大の上水研一朗監督だ。「最悪を想定する」のを指導哲学にしているとはいえ、「諦めの境地」に至るとは、それほど国士舘の勢いに飲み込まれそうだったのだろう。一方、部員たちはどうだったのか。3年の鈴木によれば「“三四郎先輩ならやってくれる”とみんなが信じていた」という。

 

(写真:「試合をしながら勝機を見つけていく。今までとは違う感覚だった」と振り返った村尾)

 15時31分から始まった代表戦は、15時54分に終わった。20分以上が経過する長丁場となった。村尾は本来は90kg級で、今大会は体重95kg前後で臨んだ。大会プログラムのプロフィールには170kgと記載されている斉藤。倍近くある体重差を生かし、パワーで押す。開始早々に斉藤が投げを打った。ポイントはならなかったが、村尾に圧力をかける。村尾は足技に活路を見出すが、最初の4分間では決着がつかず、時間無制限のゴールデンスコア方式の延長に突入した。

 

(写真:決勝戦唯一の一本。敗れた斉藤はしばらく立ち上がれなかった)

 どちらに勝利が転んでもおかしくない緊迫した一戦。延長だけで11分50秒が経過し、斉藤が大外刈りを強引に打つも、決まらない。次の瞬間、素早く反応したのが村尾だった。「大外のタイミングをずらした。うまく前につぶれてくれたので、極めることができた」。バランスを崩した斉藤に寝技で仕留めにかかった。村尾の上四方固めに、斉藤は体力の限界にきていたのか身動きがとれない。寝技が決まった瞬間から動き出した掲示板のタイマーは20をカウント。ブザーが鳴り、村尾の一本勝ちで東海大の優勝が決まった。代表戦の試合時間は4分プラス延長の12分18秒。計5試合を2人で戦い抜いた。

 

(写真:村尾の下に集まる東海大のメンバー。背中で見せる主将が大仕事)

「最悪の想定、最高の想定。そのどちらも準備しておかなければいけない」。村尾は桐蔭学園高校時代、恩師の高松正裕監督から、そう言われていたという。そのどちらも想定していたからこそタフな代表戦をモノにできたのだろう。上水監督は「異常なほど準備する集団」と“村尾組”を評する。3年の鈴木が強さの理由を「試合に向けての準備力。試合で起きる様々なことを想定して練習している」と語れば、今年4月に入学したばかりの天野もこう続いた。「試合前のミーティング、研究も選手たちが自主的にやっている。入って数カ月ですが、勝ちの執念がすごいと感じました」

 

 21歳の主将は「自分ひとりじゃ絶対勝てない。全員で掴んだ優勝です」と胸を張った。常勝軍団は10月の全日本学生柔道体重別団体優勝大会で3大会連続の2冠達成を狙う。

 

(取材・文・写真/杉浦泰介、取材・写真/古澤航)

 

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