(写真:「わりごはいねが~(悪い子はいないか?)」)

「やるやる! やるやる! やろうよ、やろうよ!!!」

 ものすごい勢いでそう言うのは、よしこ(伊藤芳子)。昨年40年ぶりに再会した大学時代の友人です。当時、2年ほど木造アパートで一緒に暮らしたこともあります。「同じ“伊藤”で便利だね」などと面白がっていた。よしこは体育教師を目指しており、毎日ジャージで通学していました。そんなよしこと、どこで知り合ったかというと部活です。

 

 なんとこれでも私は体育会系のバスケ部に所属していたのです。部員には2種類のタイプが存在し、“マジ”と“なんちゃって”に分けられます。よしこはもちろん前者、私は前者のつもりでしたが客観的には後者。先日になってやっとわかったのですが、私は“なんちゃって部員”にもかかわらず、公式非公式の飲み会には全出席していたのです。そういう人は他にいない。今までそのことに気がつきませんでした……。懐の深いバスケ部です。

 

 そんなお話はさておき。

 再会したのは昨年11月のこと。よしこと共通の友人であるもう一人の同級生が私に声をかけてくれて、新潟県新発田市でパラスポーツ体験会を開催しました。そこに、よしこが遊びに来てくれたのです。てっきり彼女は体育教師をしているかと思ったら、なんと現在、秋田に住んでおり、社長夫人をしているというんです。驚いたのはそれだけではありません。その社長も大学の同級生で、伊藤という姓なんです。

 時の流れをしみじみ感じつつ、話をパラスポーツ体験会に戻しましょう。

 もともと体育会系の塊のよしこは大いに盛り上がっていました。「こういうのいいな~」「どやったらやれるんかな~」とかなんとか、大きい声で何度もつぶやいています。

 私が「秋田でやってみる?」と、ついつい言ってしまったら、冒頭のモーレツな「やるやるコール」が返ってきたのです。

 

 そこで、今年7月やってきました秋田!

 なまはげ、竿灯、きりたんぽ。

 コロナ禍でしばらくお休みしていたパラスポーツ体験会は、今年から復活です。

 STAND設立以来、様々な地域で開催させていただきましたが、ここ5年くらいは開催地の総合型地域スポーツクラブと一緒に進めることが多くなってきました。

 

 地の利があり、どのようにするとよいか、たくさんのアドバイスがいただけます。

 また、体育館の段差、車いす用の駐車場、駅からの経路など気づきも多いのです。車いすの人、視覚障がいの人に来てもらうための工夫や用意などに、フル回転する。体験会開催後、クラブでは障がいのある人が参加できる教室を企画したり、翌年改修工事をしたり、備品購入したりと発展することもあります。そして私たちは、ともに試行錯誤した学びを持ち帰ります。

 

 このようにいいことばかりなので、スポーツクラブと共催や協力という座組で進めています。

 

 私たちの活動はモデルを持って行き、その地域の人たちと一緒に、“ああこれ使える”“この部分は今の活動に活かせる”“これはそのまま真似できる”“ここだけ差し替えたらばっちり”と、共に発見をしていくことなのだと考えています。「あのあと、こういうグループができました」「あの話、いつも使わせてもらっています」。出会って協働したクラブの方も私たちも、またバトンを次の人に渡す。これが広まる力なんだと。

 

 翻って、よしこ。「何からどうしたらいいか」とのこと。そこで上記のような話をしたく、「雪が溶けたら行くから、待ってね」と言ったのに……。秋田で長年コーチをしていたミニバスケットボールのチームの方に集客の相談をしたり、市役所のスポーツ課に行き、「こんなことしませんか」と売り込んだりと、おそるべき行動力です。

 

 かくして、秋田訪問となったのです。伊藤ご夫妻に本当にお世話になりました。焦らず、協働できる人を探すことから始めます。今は楽しみでなりません。同級生のみんな、よしこから声がかかったら集合ですわよ!

 

伊藤数子(いとう・かずこ)プロフィール>

新潟県出身。パラスポーツサイト「挑戦者たち」編集長。NPO法人STAND代表理事。スポーツ庁スポーツ審議会委員。東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会顧問。STANDでは国や地域、年齢、性別、障がい、職業の区別なく、誰もが皆明るく豊かに暮らす社会を実現するための「ユニバーサルコミュニケーション事業」を行なっている。その一環としてパラスポーツ事業を展開。2010年3月よりパラスポーツサイト「挑戦者たち」を開設。また、全国各地でパラスポーツ体験会を開催。2015年には「ボランティアアカデミー」を開講した。著書には『ようこそ! 障害者スポーツへ~パラリンピックを目指すアスリートたち~』(廣済堂出版)がある。

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