155.5メートル。驚愕の数字がスポーツ紙に躍っていた。

 

 

<この原稿は2022年8月8日号『週刊大衆』に掲載されたものです>

 

 花巻東の“怪物”佐々木麟太郎が岩手大会初戦の花巻農戦で放った打球の飛距離だ。

 

 ホームランなら、メディアが大騒ぎするのもわかる。しかし、佐々木が放った打球はライトポール右への大ファール。試合は勝ったが、佐々木は3打数無安打1四球と振るわなかった。

 

 それにしてもファールがスポーツ紙の見出しを飾るなんて前代未聞だ。大物の証である。

 

 左打者の佐々木については以前にも小欄で紹介したが、漫画『ドカベン』の主人公・山田太郎がそのまま誌面から飛び出してきたような印象である。

 

 まだ2年生ながら身長184センチ、体重114キロ。既に高校通算73本(7月19日現在)のホームランを記録している。

 

 いくらホームランを量産しても、これまで体重100キロを超える、いわゆる肥満タイプの選手をプロのスカウトが高く評価することは少なかった。守る場所がない、故障のリスクが高い、足が遅い――などが、スカウトが敬遠する主な理由だった。

 

 ところが、近年、そうした流れは変わりつつある。埼玉西武の“おかわり君”こと中村剛也や山川穂高の活躍によるところが大きい。中村は体重102キロ、山川は103キロだが、あくまでも、これは公称。実際には、もっとあるはずだ。

 

 中村は、自らを“動けるデブ”と称しているが、佐々木も同タイプと見られている。DH制を敷くパ・リーグなら、より活躍の場が広がるだろう。

 

 花巻東の選手、という点も大きい。言うまでもなく菊池雄星(ブルージェイズ)や大谷翔平(エンゼルス)の母校。他にも多くのプロ選手を輩出している。

 

「成功例の多い高校の選手は指名しやすい。それだけいい指導を受けてきたということですから」(在京球団スカウト)

 

 監督は佐々木の父・洋。大谷は洋から教わった「先入観は可能を不可能にする」という言葉を、今も大切にしている。

 

 夏の甲子園を沸かせて欲しいリアル・ドカベンである。

 


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