先日、新潟県十日町市で東京2020パラリンピック車いすバスケットボール銀メダリストの宮島徹也さんをお招きして、トークショーと体験会を開催しました。今回は地元のNPO法人ネージュスポーツクラブさんと、ご一緒させていただきました。

 

 当日朝、会場設営には、たくさんのボランティアの方たちが参加くださいました。でも、なんだか皆さん、自由に動いている感じ。よく見ると、遊んでいる人もいる。なんだか不思議な雰囲気です。

 

 ネージュの事務局長・関口芳平さんがス~ッと私に近づいてきて、床を指さします。

「ほら、1分でボッチャコートができた。速いでしょ」

 よく見ると、投球するラインと、センターの×印をラインテープで引いて簡易的なコートができています。

「ボッチャ、やる人~!」

 ボッチャはこの日の体験会のラインアップではないはず。そう思っていると、関口さんは「いいの、いいの。お仕事中も遊びたい人は遊ぶ」と言います。

 

 数人がやってきて、遊び始めました。実に自由な雰囲気です。

 関口さんは「お~来たか、よしボッチャやろう」と言うと、別の場所に行ってしまいました。「今日のプログラムはバスケなんだけどな~」と、ちょっと気になる私のことは無視。

 

 並んだ並んだ車いす。30台くらいあります。しかも、赤、青、緑、黄……と実にカラフル!

 十日町市総合体育館に配備されたものに加え、この日の講師である新潟県WBC(車いすバスケットボールクラブ)キャプテン松永哲一さんが用意してくれたものです。それは圧巻です。

「いいでしょ~! 子どもたちが、わぁ乗りたいってわくわくしてくれるかなと思って作ったんです。色も形もいろいろあって、これぞ共生社会。なんちゃって!」

 松永さんはとても熱く、底抜けに明るい方です。

 

(写真:NPO法人ネージュスポーツクラブ事務局長・関口芳平さん)

<スポーツによる笑顔と活気あふれる共生社会づくり!!>を標榜するネージュの関口さんと出会ったのは6年ほど前です。

 

 実は関口さんは元中学校の体育の先生。陸上短距離が専門です。遡ること30数年前、教師としての初めての赴任先が盲学校(現在の特別支援学校)で、「何の経験もないまま突然、障がいのある子どもと出会ってしまった」とご本人。最初はどう接していいかわからない。それでも体育の時間はやってきます。

 

「ある日、ガイドランナーをやりました。視覚障がいのこの子、走るのは初めて。僕が一緒じゃなかったら彼は走れない。一緒に5キロ走りました。1日に体育の時間は4回ある。次の体育の時間も、次の日もその次の日も一緒に走りました」。生徒たちがどんどん走れるようになる喜びとともに、ご自身が実は苦手だった長距離走に強くなり、プライベートでマラソン大会に出場するほどになったそうです。

 

 それから時を経て、教員を辞した関口さんは2016年、現職に就きました。盲学校時代の経験があったから、体育館に来てすぐに思いました。「みんなでスポーツをしよう。障がいの有無に関係なく、日常的にいろんな人が通ってきてくれるようなものを。教室も、イベントもどんどんやろう」。そして私にも、「十日町で一緒に体験会やりましょう。いろんなこと、やりましょう」とお声がけいただき、コロナ前から何度かおじゃまして、今回ついに実現に至ったのです。

 

 私がカラフルな車いすの写真を撮っていると、関口さんが再び現れました。

「車いすはね、いますでに13台あります。なんとまた5台寄付してくれるところがあり、もうすぐ18台になるんです」

 これは、すごい数です。なかなかこんなに揃っているところはありません。関口さんがどれほど熱心に動いていらっしゃるかの証左です。

 

「関口さん、すごいですね」

「いやいやいや。僕の力なんかじゃないんですよ。なんかね、くれるっていう方がいて、本当にありがたいんです。は~はっはっは」と言って、また私との話を途中にして、別のところへ。

 

 ここ十日町の体育館では、実に様々な人が、自由な雰囲気の中、それぞれ好きなスポーツを楽しんでいるのがわかります。関口さんは、そういう「日常」をつくろうとしているんだ。関口さんがいつも思い描き、話してくださる「日常」というものを感じとることができた1日となりました。

 

伊藤数子(いとう・かずこ)プロフィール>

新潟県出身。パラスポーツサイト「挑戦者たち」編集長。NPO法人STAND代表理事。スポーツ庁スポーツ審議会委員。東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会顧問。STANDでは国や地域、年齢、性別、障がい、職業の区別なく、誰もが皆明るく豊かに暮らす社会を実現するための「ユニバーサルコミュニケーション事業」を行なっている。その一環としてパラスポーツ事業を展開。2010年3月よりパラスポーツサイト「挑戦者たち」を開設。また、全国各地でパラスポーツ体験会を開催。2015年には「ボランティアアカデミー」を開講した。著書には『ようこそ! 障害者スポーツへ~パラリンピックを目指すアスリートたち~』(廣済堂出版)がある。

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