先日、大阪で開かれた講演会にお招きいただきました。企業の幹部の方が大勢ご参加の会で、「パラスポーツを通して共生社会を」というテーマでお話しました。

 

 開催の1カ月ほど前、嬉しさのあまり、「今度、大阪のこんな会におじゃまするんです」と自慢しました。

 

 すると、関西ご出身の複数の御仁から共通のアドバイスをいただきました。

「大阪で話するんやったら、“ツカミ”と“オチ”がなかったらあかんで。『(オチは)どこどこ』って、聞かれるで」

 

 佐渡島で生まれ、金沢、東京と渡った私は、どうしたらええねん。

 ただ、実は吉本新喜劇が大好きで、テレビ番組を録画して見ています。よし、吉本で勉強したろ。

 

 で、見つけたのがMr.オクレさん。

 舞台登場時に「(弱々しく)こんにちは~」のツカミ。

 退場時には「(弱々しく)あほ~」がオチ。

 ビデオを見て練習を重ね、本番で皆様にご披露申し上げました。

 大爆笑とはいきませんでしたが、私の懸命さに、お付き合いの笑いをいただきました。お優しい皆様でよかった。この場を借り、改めて御礼を申し上げます。

 

 先の関西の方々によれば、子どもの頃からずっとオチの訓練をしていると言います。オチがなかったら、「それで? それで?」とオチがつくまで質問される。まずオチを考えてから、そこに行きつくような話をするとも。

 

 というわけで、“ツカミ”も“オチ”もにわかに仕込めるはずもなく、行きついたのが「クイズ」でした。

 

「問題です。日本の中で、障がいのある人が一番移動しやすい都道府県はどこでしょう?」

 

「答えは大阪。なぜなら大阪には“大阪のおばちゃん”がいるから」

 このクイズはあるパラリンピアンから教わったものです。大阪のおばちゃんは、本当によく声をかけてくれます。「この段差大丈夫か?」「どこ行きたいねん?」「おばちゃんにまかしとき!」。こうして絡んでくれるから移動が安心です。もちろん、私は大阪のおばちゃんに心からの敬意を表して申し上げています。

 

 この声かけがいかに大事か。「障がいのある人にどうやって声をかけたらいいかわからない」という話をよく聞きますが、「普通に声をかける」です。

 

 全盲の友人が10年ほど前、駅のホームから転落し、電車にひかれ、亡くなりました。

 友人は全盲の奥様と二人でよく一緒に外出しており、その日もご夫妻は一緒でした。彼のリュックに奥様がつかまり、縦列で歩いていました。ゆっくり少しずつ、二人はホームの端に向かって進み、奥様の目の前で彼一人がホームから転落してしまったのです。

 

 ホームに他に人はいなかったのでしょうか。いました。なぜ、どうして声をかけなかったのでしょうか。「どうやって声をかけたらいいかわからない」と言っている場合ではありません。「危ない」「止まれ」「落ちるぞ」なんでもいいんです。普通に声をかけてくれていたら。

 

 私がどのくらい大阪のおばちゃんを尊敬しているか、ご理解いただけましたでしょうか。いつも真似しようと心がけているのです。

 

 すると、講演が終わってから、ある方に「大丈夫や、真似できる。すぐうま(上手く)なるがな」と褒められました。“本場”の方からお墨付きをいただきましたがな。

 

 こんなこともありました。やはり終わってから、ある男性がこちらへ。「ようがんばってはる。これ、なんかにつこて(使って)」と私のテーブルの上にすっと1万円札を置いてくださいました。すごい! なんと大きな大きなオチがついたことか。ほんまにおおきに。大満足の大阪の一日でした。

 

 ところどころに愛を込めて大阪弁を入れてみました。間違っていたらごめんなさい。まだ練習中やねん(オチ)。

 

伊藤数子(いとう・かずこ)プロフィール>

新潟県出身。パラスポーツサイト「挑戦者たち」編集長。NPO法人STAND代表理事。スポーツ庁スポーツ審議会委員。東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会顧問。STANDでは国や地域、年齢、性別、障がい、職業の区別なく、誰もが皆明るく豊かに暮らす社会を実現するための「ユニバーサルコミュニケーション事業」を行なっている。その一環としてパラスポーツ事業を展開。2010年3月よりパラスポーツサイト「挑戦者たち」を開設。また、全国各地でパラスポーツ体験会を開催。2015年には「ボランティアアカデミー」を開講した。著書には『ようこそ! 障害者スポーツへ~パラリンピックを目指すアスリートたち~』(廣済堂出版)がある。

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