第145回 “オチ”がついた大阪でのお話
先日、大阪で開かれた講演会にお招きいただきました。企業の幹部の方が大勢ご参加の会で、「パラスポーツを通して共生社会を」というテーマでお話しました。
開催の1カ月ほど前、嬉しさのあまり、「今度、大阪のこんな会におじゃまするんです」と自慢しました。
すると、関西ご出身の複数の御仁から共通のアドバイスをいただきました。
「大阪で話するんやったら、“ツカミ”と“オチ”がなかったらあかんで。『(オチは)どこどこ』って、聞かれるで」
佐渡島で生まれ、金沢、東京と渡った私は、どうしたらええねん。
ただ、実は吉本新喜劇が大好きで、テレビ番組を録画して見ています。よし、吉本で勉強したろ。
で、見つけたのがMr.オクレさん。
舞台登場時に「(弱々しく)こんにちは~」のツカミ。
退場時には「(弱々しく)あほ~」がオチ。
ビデオを見て練習を重ね、本番で皆様にご披露申し上げました。
大爆笑とはいきませんでしたが、私の懸命さに、お付き合いの笑いをいただきました。お優しい皆様でよかった。この場を借り、改めて御礼を申し上げます。
先の関西の方々によれば、子どもの頃からずっとオチの訓練をしていると言います。オチがなかったら、「それで? それで?」とオチがつくまで質問される。まずオチを考えてから、そこに行きつくような話をするとも。
というわけで、“ツカミ”も“オチ”もにわかに仕込めるはずもなく、行きついたのが「クイズ」でした。
「問題です。日本の中で、障がいのある人が一番移動しやすい都道府県はどこでしょう?」
「答えは大阪。なぜなら大阪には“大阪のおばちゃん”がいるから」
このクイズはあるパラリンピアンから教わったものです。大阪のおばちゃんは、本当によく声をかけてくれます。「この段差大丈夫か?」「どこ行きたいねん?」「おばちゃんにまかしとき!」。こうして絡んでくれるから移動が安心です。もちろん、私は大阪のおばちゃんに心からの敬意を表して申し上げています。
この声かけがいかに大事か。「障がいのある人にどうやって声をかけたらいいかわからない」という話をよく聞きますが、「普通に声をかける」です。
全盲の友人が10年ほど前、駅のホームから転落し、電車にひかれ、亡くなりました。
友人は全盲の奥様と二人でよく一緒に外出しており、その日もご夫妻は一緒でした。彼のリュックに奥様がつかまり、縦列で歩いていました。ゆっくり少しずつ、二人はホームの端に向かって進み、奥様の目の前で彼一人がホームから転落してしまったのです。
ホームに他に人はいなかったのでしょうか。いました。なぜ、どうして声をかけなかったのでしょうか。「どうやって声をかけたらいいかわからない」と言っている場合ではありません。「危ない」「止まれ」「落ちるぞ」なんでもいいんです。普通に声をかけてくれていたら。
私がどのくらい大阪のおばちゃんを尊敬しているか、ご理解いただけましたでしょうか。いつも真似しようと心がけているのです。
すると、講演が終わってから、ある方に「大丈夫や、真似できる。すぐうま(上手く)なるがな」と褒められました。“本場”の方からお墨付きをいただきましたがな。
こんなこともありました。やはり終わってから、ある男性がこちらへ。「ようがんばってはる。これ、なんかにつこて(使って)」と私のテーブルの上にすっと1万円札を置いてくださいました。すごい! なんと大きな大きなオチがついたことか。ほんまにおおきに。大満足の大阪の一日でした。
ところどころに愛を込めて大阪弁を入れてみました。間違っていたらごめんなさい。まだ練習中やねん(オチ)。
<伊藤数子(いとう・かずこ)プロフィール>