男性にとって優先すべきは「仕事」か「育児」か。もはや、こうした設問自体が意味をなさない。

 

 10月1日から厚労省の肝入りで「産後パパ育休」制度がスタートした。これまでも育休制度はあったが、新制度は原則休業の2週間前までに申請すれば、出生後8週間以内に4週間までの休暇を取得することができる。子どもが1歳になるまでに最大で4回に分けて取得することも可能だ。

 

 新制度導入の背景には、緩やかに上昇しているとはいえ、依然として低い男性の育児休業取得率がある。2021年度は13.97%。厚労省は25年までの目標を30%に掲げているが、かなり高いハードルと言わざるを得ない。

 

 少子化問題が深刻化する日本において、政府が目標とする「希望出生率1.8」に近付くには、子育て支援環境を充実させるしかない。やや遅きに失した嫌いはあるが、やらない手はない。

 

 戦後の高度経済成長期、寝食を忘れて働く“猛烈サラリーマン”がもてはやされた。それを支えたのが、家事と子育てを一手に担う“専業主婦”である。無給で家事労働をこなす彼女たちの「内助の功」に報いるために国は配偶者控除なる優遇措置を講じた。この制度は家計に恩恵をもたらす一方で、女性の社会進出を遅らせもした。

 

 さてスポーツの場合はどうか。反省を込めて言えば、私も何度か「内助の功」という言葉を使い、美談に仕立て上げたことがある。夫(選手)を育児や食事面で献身的に支える糟糠の妻。大向こうから「山内一豊の妻かよ」と突っ込みが入りそうだが、昭和においては、それがスポーツ界における理想の夫婦像とされてきた。

 

 しかし、時代は変わる。MLBには「父親リスト」なる独自の男性産休制度がある。11年前に導入され、青木宣親、川﨑宗則、前田健太、田中将大、ダルビッシュ有が、この制度の恩恵に浴している。この9月にはカブスの鈴木誠也がリスト入りし、第一子の出産に立ち会うため一時的に帰国した。

 

 日本で、こうした産休制度導入の見通しはあるのか。

 

「現時点では難しいでしょうね。実は昨年から慶弔休暇について機構側と話し合っているのですが、“個別対応でいいのでは”ということで、まだ制度化できていない。選手の中には“チームに迷惑がかかるので休みにくい”という声もあります。特例的に1日か2日登録を抹消し、他の選手を入れるという手もあるのですが……。産休制度についても、あれば選手たちはチームに気兼ねなく休むことができます。もっとも休むか休まないかは、あくまでも個々の判断に委ねられるべきでしょう」(森忠仁選手会事務局長)。肝心の選手たちは、どう考えているのか。まずはそこである。

 

<この原稿は22年10月12日付『スポーツニッポン』に掲載されたものです>


◎バックナンバーはこちらから