明るいキャラクターで多くの野球ファンに愛された元北海道日本ハムファイターズの杉谷拳士さん。引退後の新しい出発に当たり、現役時代の思い出とこれからの決意を、当HP編集長・二宮清純が聞いた。

 

※対談は2022年12月中旬に実施

 

二宮清純: 実は、プロボクサーだったお父さん(杉谷満さん)の試合を取材したことがあるんです。長くこの仕事をしていますが、親子二代、しかも違う競技で取材することはなかなかありません。その意味で、今日は楽しみにしてきました。

杉谷拳士: 父を知っているとは驚きました。何だか急に緊張してきましたが、よろしくお願いします(笑)。

 

二宮: 14年の現役生活にピリオドを打ったわけですが、心残りなどはありますか。

杉谷: やり切ったので、何もありません。今は、「次に進もう」というドキドキやワクワクで胸がいっぱいです。

 

二宮: 来シーズン(23年)、北海道日本ハムファイターズは本拠地を移転し、選手たちは新設の「エスコンフィールド北海道」でプレーします。球場はご覧になりました?

杉谷: 見学させてもらいました。開閉式の屋根を持つ天然芝の球場で、客席がフィールドに近いので観客は臨場感を楽しめると思います。一方選手目線で言えば、これまでの札幌ドームより少し狭くなるので、戦い方も変わってくるだろうなと思いました。恐らく、ホームランの数も増えるでしょう。

 

二宮: そうすると、清宮幸太郎選手や万波中正選手などの長距離砲には有利ですね。

杉谷: そうですね。ただ、日本ハムの投手は「フライ投手」(アウトをフライ中心に取る)が多いので、苦戦する可能性があります。

 

二宮: 少し大きめのフライが、スタンドに入ってしまうわけですね。

杉谷: そうです。それなので個人的には、打線を強化して5点取られたら6点取り返すようなチーム作りが必要かなと思っています。

 

二宮: 2008年のドラフト会議で日本ハムから6位指名を受けて入団したわけですが、どうしても日本ハムに入りたかったそうですね。

杉谷: はい。実は他の球団や社会人チームからも誘いを受けていました。でも、日本ハムには高校の先輩である森本稀哲さんがいたし、何より、選手がとても楽しそうに野球をやっていることに心を惹かれました。入団テストで思うような結果が出せなかったので、内心は厳しいと思っていましたが、氏名直前に連絡がきました。

 

二宮: 球団は、杉谷さんのどの部分に魅力を感じたのでしょう。何か聞きましたか?

杉谷: 「やる気」と「元気」ですね(笑)。「あの明るさ、前向きな姿勢は面白い」と指名してくれたようです。

 

二宮: 選手の個性を大事にする日本ハムらしい理由ですね。杉谷さんはユーティリティープレイヤーとして活躍しましたが、入団当時のポジションは?

杉谷: 二塁手をやりたかったのですが、田中賢介さんがレギュラーで、遊撃には金子誠さん、三塁には小谷野栄一さん、一塁は髙橋信二さんがいました。外野も左翼が稀哲さん、中堅が糸井嘉男さん、右翼が稲葉篤紀さん。つけ入るすきは全くありませんでした。

 

二宮: あらためて聞くとすごいメンバーですね。確かに、そこに入るのは大変だ。

杉谷: やっと1軍の試合に出られるようになった3年目、田中さんがけがで離脱してチャンスだと思ったのですが、球団は外国人選手を獲得しました。私自身、きっと登録を抹消されると思っていたのですが、当時のコーチたちが「杉谷を2軍に落とすぐらいだったら、外野で使わせてください」と言ってくれたようで、1軍に残ることができました。

 

二宮: なるほど。そうして守れるポジションが広がっていったんですね。

杉谷: はい。外野をやらせてもらったことで、自身の野球観もすごく変わりました。長く野球を続けることができたのも、あの時の経験があったからだと思っています。

 

二宮: 杉谷さんと言えば、19年5月の東北楽天ゴールデンイーグルス戦(札幌ドーム)で見せた左右両打席ホームランが特に印象に残っています。史上19人目の偉業でした。

杉谷: 札幌ドームは広いし、そこまでパワーに自信があったわけではないので、自分でも驚きました。

 

二宮: 10月の引退会見では、栗山英樹元監督がサプライズで登場し、男泣きされていましたね。栗山さんは、どんな監督でしたか。

杉谷: 父のような存在です。私の野球人生は、栗山さんがかけてくれたたくさんの言葉によって支えられ、素敵な終わり方ができました。

 

二宮 どんな声かけをされたのか、よければ教えてください。

杉谷: よく言われたのは、「拳士は拳士らしく前に進もう」ということです。だから引退会見も「前進」会見という呼び名でやりました。会見では泣かないつもりでいたのですが、栗山さんの姿を見たらもうダメでしたね。

 

(詳しいインタビューは2月1日発売の『第三文明』2023年3月号をぜひご覧ください)

 

杉谷拳士(すぎや・けんし)プロフィール>

1991年2月4日、東京都練馬区出身。小学3年生の時に兄の影響で野球を始める。帝京高校進学後は、春夏通算3度の甲子園出場。2年生の秋には主将に就任し、スイッチヒッターに転向した。2008年のドラフト会議で北海道日本ハムファイターズから6位指名を受けて入団。11年6月に一軍初出場を果たし、7月のフレッシュオールスターゲームでは優秀選手賞を受賞。明るいキャラクターや派手なパフォーマンスでテレビ番組への出演も果たし、一躍人気選手となった。19年5月には、史上19人目となる左右両打席本塁打を達成。22年シーズン終了後に現役を引退した。現在はスポーツビジネスでの成功を目指し、今春の起業を計画している。


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