何がきっかけだったのか、我が家の小学生が突如としてドハマリした博多華丸・大吉によると、おじさんというものは、ダジャレを思いつくと口にせずにはいられない生き物であるらしい。う、耳が痛い。ただ、個人的にはダジャレ以上に我慢のできないおじさんが多いのではと感じるのは、自分も含めて、昔話である。

 

 ということで、お許しいただきたく。

 

 Jリーグが誕生して今年で30周年。あのとき27歳だったサラサラ髪の青年は、赤いちゃんちゃんこまで3年を切るトシになった。頭頂部から友を失っているわたしの場合、孫正義さんのように「髪が後退したのではない。わたしが前進したのだ」と開き直ることもできない。もっと早い段階で「トモダチなら当たり前」しておけばよかったと悔やむばかりである。

 

 こんな未来が待っているとは思わなかった。

 

 国立競技場が超満員の観客で埋まった開幕戦。正直、わたしは半信半疑だった。ファンは増えた。選手のギャラも、どうやらとんでもないレベルにまで跳ね上がったらしい。ただ、新リーグを構成する選手のほとんどは、ついこの間までJFLでプレーしていたアマチュア選手である。いわばハリボテ。これで日本サッカーが強くなる、この国にサッカーが根付く、W杯にも出られるようになる……とは、とても思えなかった。

 

 10チームで始まったJリーグは、拡大に拡大を続け、いまではクラブのない都道府県を探す方が難しいまでになった。今年からは試合観戦のついでに奈良の鹿と戯れることもできるようにもなる。

 

 欧州や南米に比べるとまだまだ、と感じる方もいるだろうが、サッカーという競技はずいぶんとこの国の日常になった。選手のレベルもあがった。日本がW杯に出場するのは当たり前。欧州のクラブでプレーするのも当たり前。もうすぐ、いわゆるビッグクラブでプレーするのも、なんならそこでスーパースターになるのも当たり前になる時代が来るかもしれない。

 

 開幕を疑心暗鬼で迎えた人間としては、立ち上げた方々、引き継ぎ、発展につなげた方々、支えてくださったファン、そして数えきれないほどの選手たちにひたすら感謝するしかない。よくぞ、ここまで。それが素直な感想である。ほぼすべての面で、日本サッカーは孫正義さんになった。つまり、前進した。

 

 唯一、前進できなかったというか、むしろ明らかに後退してしまったのは、選手たちのギャラである。

 

 データによってバラつきはあるものの、昨年度のJリーグの平均年俸は3000万円台の後半とされている。これは全世界のリーグ戦の中で20位前後の数字で、ドイツの2部リーグよりも、およそ経済大国とは言い難いトルコやアルゼンチン、ポルトガルよりも下ということになっている。

 

 曲がりなりにも少年たちの憧れの舞台だったJリーグは、このままいけば、世界に飛び出すための踏み台でしかなくなってしまう。

 

 30年前、Jリーグとほぼ同じ市場価値だとされていたプレミアリーグの平均年俸は、いまや5億円に届こうとしている。英国のGDPが日本の10倍以上だというのならば納得もできるが、もちろん、現実はそうではない。

 

 なぜこの差がついたのか。平均年俸をせめて世界のベスト10に入れるためにはどうするべきか。これは、まず我々おじさんたちが考えなければならないことだとわたしは思う。

 

<この原稿は23年2月16日付「スポーツニッポン」に掲載されています>


◎バックナンバーはこちらから