Jリーグに歓声が戻ってきた。素晴らしい。たぶん、グラウンドを整備する方々もいつも以上に気合いが入っていたのだろう。どのスタジアムも、ピッチ状態は最高に近かった。天候に恵まれなかった地域はあったにせよ、観客の入りも、概ね申し分なかった。

 

 なので、驚いた。

 

 無観客のスタジアムと、満員のスタジアム。お客さんが声を出すことが許されないスタジアムと、思いの丈をぶつけられるスタジアム。ホームチームにとって、どちらがありがたいかはいうまでもない。というわけで、開幕戦に関してはホームチームが全部勝ち点3を取ったりして……というのがtotoとウィナーを購入するに当たってのヨミだったからだ。

 

 結果は、ホームチームの2勝3分け4敗。

 

 J2はもっとひどかった。同じくホームチームからみて、2勝4分け5敗。

 

 ちなみに、声どころか観客の姿すら見えない状況での開幕だった3年前はというと、J1、J2をあわせてホームチームの9勝4分け7敗だった。これでも欧州の基準に比べればだいぶ低めの数字だというのに、まさか、それを遥かに下回る勝率になろうとは。次節からは、開幕戦だけが異常だったのだ、と振り返れるようなホームチームの奮起に期待したい。

 

 と、こんなことを書いておいてなんなのだが、開幕戦でわたしが一番感銘を受けたのは川崎Fだった。

 

 グアルディオラに率いられたバルセロナが世界を席巻した00年代、わたしはこのチームの黄金時代はほぼ未来永劫に続くのでは、と思っていた。強さの源泉は育成システム。誰が監督になろうが、カンテラという才能の泉を潰しでもしない限り、バルサのサッカーは綿々と受け継がれていくはずだ、と。

 

 予想は完全に外れた。

 

 ペップがチームを去ったあと、バルサは少しずつ、しかし確実に変質していった。シャビが去り、イニエスタが去ると、原形を見いだすことすら難しくなった。どれほど素晴らしい育成システムを持ったチームであっても、監督や選手の入れ替わりによって変わり果てた姿になってしまう。

 

 だが、鬼木体制になって7年目を迎えてもなお、川崎Fは川崎Fであり続けている。大黒柱だった中村憲剛が現役を退き、毎年のように主力を海外に放出しながらも、川崎Fであり続けている。過去6年間で獲得したタイトルの数は実に「8」。これはもう、「王朝」と呼んでもいいぐらいの数字である。

 

 前任者の風間八宏さんがカリスマ的存在だったこともあり、就任直後の鬼木監督に対する周囲の評価、期待は、それほど高いものではなかった印象がある。だが、Jリーグ史上、かくも長い間、かくも高いクオリティーを維持させた日本人監督はいなかった。

 

 自分たちのミスで先制をゆるした開幕戦にしても、川崎Fは最後まで自分たちのスタイルを見失わなかった。凡庸なチームであれば、自陣でのつなぎから失点してしまうと、同じミスを怖がるものだが、来たら剥がす、という基本線にブレが生じることは一切なかった。

 

 前年度王者相手に開幕戦をホームで落としたのは確かに痛い。サッカーは結果が内容を蝕むこともある競技である。ただ、それを踏まえてもなお、今年も自分たちがリーグの軸であることを開幕戦での彼らは証明した。次節は強敵鹿島戦。早くも、大一番である。

 

<この原稿は23年2月23日付「スポーツニッポン」に掲載されています>


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