2月に入り球春到来です。各球団、活気づいてきたようですね。今回、巨人の練習でキラリと光る新人に目を奪われました。ドラフト4位入団・門脇誠です。それでは、僕のキャンプの経験談も含め、今月も語りましょう。

 

 キラリと光ったショート・門脇

 

 門脇のショートの守備は素晴らしいですね。センターに抜けそうな打球をスライディングでキャッチし、一塁に送球して見事アウトに仕留めました。そのプレーもさることながら、“オレは必死でやっている、これくらい捕って当たり前”という雰囲気、姿勢も見事でした。

 

 上記のプレーは誰が見てもわかりやすいものでしたが、門脇はきちんと足を使って守れています。足を動かし、打球の正面に回れる利点は土の人工芝で発揮されます。イレギュラーなバウンドにも状態を落として、股を割り打球を捕れるのは名手の条件だと僕は思います。門脇はバッティングもいいですね。ちょこちょこと当てようとせず、バチンとしっかり当てに行くスケールの大きなバッティングをします。経験を積めばさらに打てるショートになると感じる逸材です。

 

 チーム全体のキャンプ成功には若手の勢いは大事でしょう。若い選手が、がんがんキャンプを牽引するとベテランにも火がつき、競争が活性化します。これは期待している門脇にも言えます。勢いがよいままオープン戦に入り、開幕前にへばってコンディションが落ちてしまうのはもったいない。肉離れなどのケガを負ってはなおさらです。私がコーチを務めていた時は、頑張る選手の状態維持を意識していました。状態が落ちそうになってから対処しては既に遅い。落ちそうになる前に、少しずつ休ませてあげるんです。良い状態のまま門脇が「開幕一軍入り」できるか見物です。

 

 タクトを振るったコーチ時代

 

 さて、今年のキャンプは各球団、練習見学の制約を撤廃しつつあるようです。昨年までは事前見学予約が必須だったものが撤廃されたり、ブルペン見学も可能な球団もあったり。現場にファンがもたらせてくれる活気は選手の成長につながります。

 

 ノッカーと受け手だけの練習だと、淡泊になりがち。選手のモチベーションはなかなかあがりません。そこで練習を見学に来た、ファンの人たちに手伝ってもらうんです。僕は客席に「選手がナイスプレーをしたら、ぜひ拍手を!」と声掛けしていました。

 

 するとお客さんが「おおおおっ!」と歓声をあげて拍手をしてくれるのですが、「こんなんで拍手しないで! 選手を甘やかさないで(笑)」と返すと客席もノックを受けている選手も笑ってくれて、雰囲気がとてもよくなるんです。そうなると、ノッカーの僕もノレるし、客席のリアクションや声援があると選手は頑張れるんです。キツイところでのあと一歩が出たり、30センチ腕を伸ばせたり……。ファンが選手を育ててくれるので、僕はファンを盛り立てることを考えていました。自分(ノッカー)、選手、ファンが三位一体となり、三者が楽しめる好循環を生むのもコーチの役割だったりします。

 

 最後に、僕が臨時コーチを務めている立教新座高校野球部について。現在は学年末試験のため休みですが、これがあけてしばらくすると7日間で14試合の練習試合(1日2試合のダブルヘッダー)が待っています。段々とチームに一体感が生まれてきています。県ベスト8の壁を破り、ベスト4の新しい景色を選手たちに見せてあげたいと思っています。若い選手たちがハツラツとグラウンドで白球を追いかけている姿は美しい。スポーツを通じ、何かを感じ、学び、どんな大人に成長するのか楽しみで仕方ありません。

 

<鈴木康友(すずき・やすとも)プロフィール>
1959年7月6日、奈良県出身。天理高では大型ショートとして鳴らし甲子園に4度出場。早稲田大学への進学が内定していたが、77年秋のドラフトで巨人が5位指名。長嶋茂雄監督(当時)が直接、説得に乗り出し、その熱意に打たれてプロ入りを決意。5年目の82年から一軍に定着し、内野のユーティリティプレーヤーとして活躍。その後、西武、中日に移籍し、90年シーズン途中に再び西武へ。92年に現役引退。その後、西武、巨人、オリックスのコーチに就任。05年より茨城ゴールデンゴールズでコーチ、07年、BCリーグ・富山の初代監督を務めた。10年~11年は埼玉西武、12年~14年は東北楽天、15年~16年は福岡ソフトバンクでコーチ。17年、四国アイランドリーグplus徳島の野手コーチを務め、独立リーグ日本一に輝いた。同年夏、血液の難病・骨髄異形成症候群と診断され、徳島を退団後に治療に専念。臍帯血移植などを受け、経過も良好。18年秋に医師から仕事の再開を許可された。18年10月から立教新座高(埼玉)の野球部臨時コーチを務める。NPBでは選手、コーチとしてリーグ優勝14回、日本一に7度輝いている。19年6月に開始したTwitter(@Yasutomo_76)も絶賛つぶやき中。2021年4月、東京五輪2020の聖火ランナー(奈良)を務め、無事"完走"を果たした。


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