WBCで日本が世界一奪還に成功しました! 栗山英樹監督、選手、スタッフの皆さま、本当におめでとう。そして感動をありがとう。非常に興奮する準決勝、決勝の2日間でした。さて、このWBCは栗山監督の動くところ、動かないところの采配が素晴らしかったように思います。嬉しさ、感動、興奮などが入り混じったホットな状態で、即座に編集部に連絡しました(笑)。では、侍ジャパンについて語っていきましょう!

 

 まずは栗山監督が動かなかったところについて。今大会、村上宗隆は不振にあえいでいました。「どうして、見逃すんだ」「バットを振れよ」「もう交代させた方が……」と思った方も少なくないと思います。しかし、栗山監督は打順を入れ替える措置は施したものの彼を信じて、試合で使い続けました。しかも、「最後はオマエで勝つんだ」と伝えていたそうです。準決勝・メキシコ戦でのサヨナラ打しかり、決勝アメリカ戦でのソロホームランしかり、本当に大事な場面で結果を残しました。辛抱することで実を結んだ采配でした。

 

 続いて、栗山監督が動いたところについて。栗山監督が動くときの速さたるや、それはもうあっぱれでした。メキシコ戦、9回裏の日本の攻撃。大谷翔平がツーベースで塁に出て、吉田正尚が四球で続きました。ここで吉田に代えて周東佑京をピンチランナーに起用しました。彼は持ち前の快速を飛ばし、生還しました。大谷がセカンドベース付近で止まっていたこともありましたが、驚きの速さでした。大谷の生還後、間髪入れずホームインしました。

 

 この場面、セオリー通りの交代といえばそうですが、勇気が必要です。監督としては延長やタイブレークなどを考えると「やっぱり、選手を残しておきたい」とよぎるものです。そこをスパッと決断したのですから栗山監督は素晴らしい。もっと言えば、この場面で周東を残しておいたのもお見事。8回裏に岡本和真がデッドボールにより出塁しました。ここで代走を送りましたが、中野拓夢を起用しました。彼も俊足ですがこういった栗山監督の采配には目を見張るものがありました。そして、キャッチャーを3人使い切ったのも大胆でした(まぁ、近藤健介もいる、と思ったのでしょうかね)。動いた時、動かない時、静と動の判断が抜群で恐ろしささえ感じました。

 

 ダルビッシュ有が宮崎合宿から合流し、ピッチャー陣を束ねていたことも大きかった。後輩へのアドバイス、緊張をほぐすための食事会、“主役”大谷への気遣いや配慮。36歳のベテランが見せた振る舞いも世界一奪還への大きなアシストだったといえるでしょう。若手投手も自信をつけたこと間違いなしです。20歳の髙橋宏斗はトラウト、ゴールドシュミットのメジャーMVP経験者から連続三振を奪った。アメリカも驚いたことでしょう。その他の投手陣も怖いもの知らずでばんばん投げ込むわけですから、見ていて清々しかったです。

 

 それにしても、こんなに素敵なチームがこの大会で解散とはとても名残惜しい。クローザーが泥んこユニホームでマウンドにあがる光景なんてそうそうありませんし、帽子を投げて喜ぶ姿はもはや映画です。いや、映画でもあのような脚本は用意できないかもしれない。「侍ジャパンロス」に陥っているのは事実ですが、プロ野球開幕ももう間もなくです。自分のチームのこともあるのに、侍ジャパンの投手コーチを務めてくれた吉井理人監督率いる千葉ロッテを応援しようかな。

 

<鈴木康友(すずき・やすとも)プロフィール>
1959年7月6日、奈良県出身。天理高では大型ショートとして鳴らし甲子園に4度出場。早稲田大学への進学が内定していたが、77年秋のドラフトで巨人が5位指名。長嶋茂雄監督(当時)が直接、説得に乗り出し、その熱意に打たれてプロ入りを決意。5年目の82年から一軍に定着し、内野のユーティリティプレーヤーとして活躍。その後、西武、中日に移籍し、90年シーズン途中に再び西武へ。92年に現役引退。その後、西武、巨人、オリックスのコーチに就任。05年より茨城ゴールデンゴールズでコーチ、07年、BCリーグ・富山の初代監督を務めた。10年~11年は埼玉西武、12年~14年は東北楽天、15年~16年は福岡ソフトバンクでコーチ。17年、四国アイランドリーグplus徳島の野手コーチを務め、独立リーグ日本一に輝いた。同年夏、血液の難病・骨髄異形成症候群と診断され、徳島を退団後に治療に専念。臍帯血移植などを受け、経過も良好。18年秋に医師から仕事の再開を許可された。18年10月から立教新座高(埼玉)の野球部臨時コーチを務める。NPBでは選手、コーチとしてリーグ優勝14回、日本一に7度輝いている。19年6月に開始したTwitter(@Yasutomo_76)も絶賛つぶやき中。2021年4月、東京五輪2020の聖火ランナー(奈良)を務め、無事"完走"を果たした。


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