アジア勢相手に苦戦をする。てこずる。そのたびに思った。書いてきた。

 

 これでは、世界では勝てない。

 

 ひょっとしたら、それが根本的な間違いだったのかもしれない。20歳以下のアジア杯を見ながら、ふとそんなことを思った。

 

 中国、サウジアラビア、キルギスと争った1次リーグを、日本は全勝で突破した。世界への切符がかかった準々決勝のヨルダン戦も、2-0で勝ち抜けた。

 

 ただ、各々の試合内容は簡単なものではなかった。どの試合にも苦しい時間帯はあり、ツキが相手に味方すれば、逆の結果になることも十分にありえた。

 

 ところが、これまでであれば「ヤバいなぁ」という空気が満ち満ちていてもおかしくなかった時間帯を、日本の若い選手たちは淡々と乗り越えた。いや、本人たちは必死だったのかもしれないが、従来の日本選手が醸しだしていたイヤな焦りの気配は、微塵も感じさせなかった。

 

 日本のサッカーは、新時代に入ったのかもしれない。

 

 ブラジルがアジアの国にてこずったとする。ファンは、メディアは、選手は、思うだろうか。

 

 これでは、W杯は戦えない。

 

 思うはずが、ない。ブラジル人たちは、自分たちが世界で戦えることを知っている。格下相手に苦戦することがあっても、その自信は揺らがない。こっぴどい批判は沸き起こるだろうし、選手も反省はするだろうが、かといって自分たちの可能性を否定することはない。

 

 その域に、日本の若い選手たちが足を踏み入れつつある気がする。ならば、わたしも自分を戒める。染みついたコンプレックスを、負け犬根性を、サッカーの見方に反映させないようにしていかなければならない。

 

 たとえば、アジアではできた主導権を握るサッカーが、W杯ではできなかったことを「仕方がない」で片づけないようにしたい。いままでは相手がドイツだから、スペインだからで済ませていた劣勢の理由を、自分たちの不出来、未完成に求めていきたい。

 

 4節が終わったJ1では、早くも無敗チームが1つだけになった。それが昇格組の新潟だということには、さしたる驚きはない。世界のサッカーをみれば、頻繁ではないがままあることだ。ただ、彼らが展開しているサッカーには、正直なところ衝撃を受けている。

 

 J2での新潟は、いわゆるボール保持率と好機の数で相手を圧倒するチームだった。J2における彼らの戦力的優位性を考えれば、これも驚くことではない。

 

 だが、ボール保持率の大切さを吹聴するチームの大半が、実力的に上回る相手との対戦になると、あっさりと主義主張を捨て去る中、新潟は見事なまでにJ2時代と同じスタイルを貫いている。それは、川崎Fを相手にしても変わらなかった。

 

 新潟の前線に大迫はいないし、中盤に家長がいるわけでもない。それでも、彼らは統一された意識と、それを実現するためにやってきたであろう細かな積み重ねを武器に、J1序盤戦を乗り切りつつある。

 

 新潟で松橋監督がやっていることは、今後、日本代表がW杯でやらなければならないことと似ている。若手の意識が変わりつつあり、J1でも胸のすくような挑戦が始まった。すでに十分な名声を手にした森保監督だが、月末のテストマッチでは、昨年までとは違った一面を感じさせてほしい。

 

<この原稿は23年3月16日付「スポーツニッポン」に掲載されています>


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