2週間前の小欄で、MLBが今季から極端な守備シフトを禁止したことについて、「お上が干渉する手合いのものではないと考えている」と私見を述べた。

 

 それは投球時間を制限するピッチクロックなる新ルールについても同様である。相手打者と戦う前に制限時間が気になって仕方がないような素振りをするピッチャーもいて、野球本来の興趣をそぐことこの上ない。

 

 言うまでもなく野球は時間に縛られないスポーツである。MLBの試合時間は2012年から平均で3時間(延長含む)を超え、近年では3時間半を超える試合も少なくない。それが野球離れを引き起こしているとMLBは案じていた。

 

 危機感を抱いたMLBが改革に動いたのは当然だ。しかし肝心の時短策のメニューがよくない。小さな欠点を矯正した結果、全体を台無しにすることを「角を矯めて牛を殺す」というが、米国にこの手の格言はなかったのだろう。漢方薬を試す前に、いきなり外科手術に踏み切ってしまったようなものだ。

 

 周知のようにNFL、NBA、MLB、NHLの北米4大スポーツの中で、時間制を採用していないのは唯一、MLBだけだ。他者との比較優位を簡単に手放すのは、どうにももったいない気がする。

 

 とはいえ、3時間超えのゲームは、やはり長過ぎる。高齢者は腰に悪いし、子どもたちは明日の学校が気になる。結局のところは選手、ベンチ、そして審判も問題意識を共有し、協力してスピードアップに励むしかないのだろう。

 

 今、米国で起きていることは、日本にとっても“対岸の火事”ではない。コリジョンルールもリプレー検証も、少しばかり遅れて日本に入ってきた。NPBの昨季の平均試合時間(延長含む)はセが3時間14分、パが3時13分。このまま放置しておいていい問題ではない。

 

 先のWBCでの侍ジャパンの優勝はNPBにとっては僥倖だった。市場用語でいうところの潜在顧客の掘り起こしにも成功した。間違いなく球界全体に追い風が吹いている。しかし、新規ファンは移り気だ。一見さんからご常連になってもらうには、スピードアップは避けては通れない。

 

 それというのも、こんなデータがあるからだ。かつてニフティーが「プロ野球人気低下の理由」について問うたアンケートで、「試合時間の長さ」をあげた人は全体の3割を占めた。UFJ総研が行った同様のアンケートでも27.7%の回答者が「試合のテンポが遅いこと」に印をつけた。

 

 米国のようにお上の手を借りずとも、現場の力だけで時短が遂行できれば、WBCの優勝とはまた違う意味で、日本野球の優位性を示すことができるのではないか。ことは現場の自治権にかかわる重大な問題である。ユニホーム組(審判も含む)には腹を決めて時短に取り組んでもらいたい。

 

<この原稿は23年4月5日付『スポーツニッポン』に掲載されたものです>


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