(写真:ⓒ竹見脩吾)

 4月8日、横浜F・マリノスカップ第18回電動車椅子サッカー大会に行ってきました。練習や体験会にはおじゃましていますが、試合を観戦するのは、かなり久しぶりのことでした。もちろん、私は金沢ベストブラザーズの応援。チームは石川県から、会場のある神奈川県藤沢市へ総勢19名で乗り込みました。

 

 全身の中で、指先だけがほんの少し動く牧野勇樹選手(マッキー)。コロナで3年間練習がほとんどできなかったので、さらに可動域が減ってしまったといいます。そこで、そのわずかな動きでマシンを操作できるように、複雑に工夫を凝らした手づくりの操作レバー。マッキーはこれで戦います。

 

(写真:ⓒ竹見脩吾)

 当日の体育館は気温が低く、スタッフはマッキーの指先をカイロやドライヤー、マッサージで温めます(写真)。

 

 試合開始。前半途中からマッキーはコートへ向かいます。あんなにわずかな指先の可動で、これほどまでに、と驚かされる機敏で速い動き。途中交代で、ベンチに戻ってきた際にはとても興奮した表情を見せていました。“何としてでもサッカーをする”“試合に出る”。そんな強い思いがにじんでいるようでした。

 

(写真:ⓒ竹見脩吾)

 2016年、日本障がい者サッカー連盟が設立されました。

 アンプティサッカー、CP(脳性まひ)サッカー、ソーシャルフットボール、知的障がい者サッカー、電動車椅子サッカー、ブラインドサッカー、ろう者サッカーと7つの異なる障害の競技団体が参加しています。いろいろな障害があっても“サッカーをしたい”、“サッカーをしよう”という気概が伝わってきます。サッカーをすることで、自身も、周りの人にもサッカー以外の何かが起こっているはずです。スポーツの力は計り知れません。

 

 今回、大会があることの大切さを、今さらながら強く感じました。

 

(写真:ⓒ竹見脩吾)

 試合の時間が近付いてくるとき、監督が円陣で紡ぎ出す言葉。目まぐるしく動くスタッフ。緊張感が高まっていきます。当たり前ですが、イベントや体験会での、それとはまったく違うものです。

 

 試合中の一挙手一投足は、観ている人の心を揺さぶります。大会を開催する意義は、こういうところにもあるんだと改めて思わされました。

 

(写真:ⓒ竹見脩吾)

 元日本代表監督で現在石川県電動車椅子サッカー協会会長である城下健一さん(写真左)は、唸るようにこうおっしゃっていました。

「もっと大会が必要だ。試合じゃなきゃ見せられない、伝えられないものがたくさんある」

 

「う~ん。城下健一はきっと何かやる」

 私は直感的にそう思いました。何年後かに、この続きをご報告することにします。

 

 

フォトギャラリー 撮影/竹見脩吾

 

伊藤数子(いとう・かずこ)プロフィール>

新潟県出身。パラスポーツサイト「挑戦者たち」編集長。NPO法人STAND代表理事。STANDでは国や地域、年齢、性別、障がい、職業の区別なく、誰もが皆明るく豊かに暮らす社会を実現するための「ユニバーサルコミュニケーション事業」を行なっている。その一環としてパラスポーツ事業を展開。2010年3月よりパラスポーツサイト「挑戦者たち」を開設。また、全国各地でパラスポーツ体験会を開催。2015年には「ボランティアアカデミー」を開講した。第1期スポーツ庁スポーツ審議会委員、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会顧問を務めた。2022年10月、石川県成長戦略会議委員に就任。同11月に馳浩スペシャルアドバイザーに就いた。著書には『ようこそ! 障害者スポーツへ~パラリンピックを目指すアスリートたち~』(廣済堂出版)がある。

◎バックナンバーはこちらから