コロナが明け、今年は多くの体育館を訪ねました。たくさんの人が行き交う風景、気持ちがいいです。ある体育館で、以下のような看板を見つけました。

「体育館使用後は速やかにお帰り願います。ロビーのご利用は短時間でお願いします」

 見つけたときは“コロナかな”と思ったのですが、すでに5類へ移行した時期でした。まだ看板を残しているだけでしょうか。

 

 当然のことですが、体育館にはそれぞれ利用規約があります。利用申し込みにあたって誓約書にサインをする体育館もあったように記憶しています。

 調べてみると、多くの体育館の利用規約に、ここ数年はコロナに関しての記述で「利用後は速やかにお帰りください」「試合終了後は練習を行わず、速やかにお帰りください」と、ありました。感染への注意喚起を規約に載せ、利用後の滞在を禁じています。コロナの状況下において、「規約」として記載することは理解できました。

 

 では、この体育館入口のこの張り紙はどうでしょう。

「体育館使用の際は、壁にボールが当たらないよう気をつけてください。修理が必要な場合は修理費用をご負担いただく場合があります」

 過去に破損など、“いろいろあったのだなあ”と想像に難くありません。しかし、バレーボールやバスケットボールをするとき、果たして壁に当たらないようにプレーできるのでしょうか。

 

「体育館において、技量を超えた行為及び危険行為を行わないでください」

 危険行為とまではいかなくても、現在の技量を超えようとして練習をするのではないでしょうか。いずれも何かを禁じる規定です。

 

 また、障がいのある人の利用を想定、配慮して以下のようなものもあります。

「エレベーターを利用される方は必ず事務所へお声がけください」

 理由を聞くと、子どもたちが遊びで乗っていて、必要な人が使いにくかったことから、だれでも気軽に使わないように掲示したとのこと。

 

 駐車場では、「車椅子の方の専用駐車場には三角コーンが置いてあります。ご利用の際にはお手数ですが受付までお声かけください」と、車椅子利用以外の人が駐車してしまうのを避けるために使用を禁じています。

 しかし、利用者は事務所までわざわざ行かなければなりません。不便さを感じます。

 

 体育館には日々、様々な方が訪れ、いろいろなことが起きています。私も多くの管理者の方から様々なお話を聞きます。「利用規定には載せてもいいが、張り紙や看板までは不要なのではないか」というご意見もありました。

 

 では、こうしてはどうでしょう。

「速やかにお帰りください」について。練習や試合が終わってから、あ~でもないこ~でもないと、コミュニケーションすることもスポーツの楽しみのひとつです。中には「ゆっくりお話する時間を過ごす場所として利用できるようにベンチを設置し、自販機の飲料を飲めるスペースを設けたい」と考える体育館管理者の方もいます。実に素敵な考えです。

 

「壁の破損」

 床面を傷つけるとの理由で利用できないケースが多かった車椅子は、最近利用が認められるようになってきています。この過程でも、様々な理由や事情を知りました。しかし、体育館は、きれいに保つことが目的に建てられてはいません。傷、破損を恐れず思いっきり汗を流すための場です。それなら、傷みが激しいほど利用が多いことの証左であり、矜持であると思ってはいかがでしょうか。

 

「エレベーター、駐車場」

 必要としている人が不便なく使用できるように、そこにいる人が気がつき、行動する環境づくりが大事です。思いやりの心を育てる体育館であってほしいと思います。

 

 現場では思いがけないほど、いろいろな事情があります。何かを変えることは、そう簡単ではないという声も聞こえてきます。それでも、変わってほしいのです。スポーツや遊びが好きな人、仲間とのおしゃべりが楽しい人、もっとうまくなろうとチャレンジする人。体育館に集うそういった多くの人たちに、禁止ではなく、解禁・許可・奨励。つまり愛を込めて接してほしいのです。笑顔があふれる体育館になると私は信じます。

 

伊藤数子(いとう・かずこ)プロフィール>

新潟県出身。パラスポーツサイト「挑戦者たち」編集長。NPO法人STAND代表理事。STANDでは国や地域、年齢、性別、障がい、職業の区別なく、誰もが皆明るく豊かに暮らす社会を実現するための「ユニバーサルコミュニケーション事業」を行なっている。その一環としてパラスポーツ事業を展開。2010年3月よりパラスポーツサイト「挑戦者たち」を開設。また、全国各地でパラスポーツ体験会を開催。2015年には「ボランティアアカデミー」を開講した。第1期スポーツ庁スポーツ審議会委員、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会顧問を務めた。2022年10月、石川県成長戦略会議委員に就任。同11月に馳浩スペシャルアドバイザーに就いた。著書には『ようこそ! 障害者スポーツへ~パラリンピックを目指すアスリートたち~』(廣済堂出版)がある。

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